家族信託について

堀亜砂子
堀亜砂子

豊かさを未来へ繋ぐ案内人
相続対策コンサルタント
堀亜砂子です!

家族信託とは?

認知症対策には「家族信託」がいいらしい・・・

そんな話を聞かれたことはありませんか?

なんとなくは知ってるけれど
実はよくわかっていない。

家族信託の仕組みって
実際に我が家のケースでも役に立つのかな?

そう思われる方も多いのではないでしょうか。

今回はそんな「家族信託」についてです。

「家族信託」とは
一言でいうと『財産管理の一手法』です。

資産を持つ方が、
特定の目的(例えば「自分の老後の生活・介護等に必要な資金の管理及び給付」等)に従って、
その保有する不動産・預貯金等の資産を信頼できる家族に託し、
その管理・処分を任せる仕組みです。

いわば、「家族の家族による家族のための信託(財産管理)」と言えます。
https://kazokushintaku.org/whats/
(「家族信託の定義」一般社団法人家族信託普及協会ウェブサイトより)

信託の仕組み


ところで
そもそも「信託」とはどういうものでしょうか?

「一般社団法人信託協会」のウェブサイトでは
下記のように定義されています。

「信託」とは
自分の大切な財産を信頼できる人に託し

自分の決めた目的に沿って
大切な人は自分のために

運用・管理してもらう制度をいいます。
(「信託について」一般社団法人信託協会ウェブサイトより)
https://www.shintaku-kyokai.or.jp/trust/

なんとなくイメージできたでしょうか?

信託の仕組では
次の登場人物が基本となります。


(1)委託者
信託を設定する者。信託財産のもともとの所有者。

(2)受託者
委託者から信頼されて財産を託された者。
信託の目的に沿って信託財産の運用・管理・処分などを行う義務を負う者。

(3)受益者
信託財産から生ずる利益を受け取る権利(信託受益権)を持つ者。


「家族信託」というのは法律用語ではありませんが、
一般的にこれらの登場人物のうち、
特に受託者が家族である仕組みを指すもので


上述の「一般社団法人家族信託普及協会」によって
「家族信託」という言葉は商標登録されているそうです。


所有者の代わりに家族が
契約にもとづき財産の管理・運用・処分などを行う
このような仕組みは「民事信託」と呼ばれることもあります。


「家族信託」も「民事信託」も実質的には大きな違いはなく
同じものとして扱われています。


これに対して、財産を託す相手が
信託銀行や信託会社であるものは
「商事信託」と呼ばれています。


厳密に言うと「商事信託」とは
信託の受託者が「業」として
不特定多数の者を対象に引き受ける信託を指し


「商事信託」を行う受託者になるためには、
「信託業法」または「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律」(兼営法)
による免許・認可が必要とされます。

信託のポイント

信託の仕組みについては
「信託法」という法律でさまざまなルールが定められており


信託の税務上の取扱いに関しては
所得税法、法人税法、相続税法などの税法に規定されています。


信託について押さえておきたい主なポイントには次のようなものがあります。


(1) 信託財産の所有権(名義)は受託者に移る

(2)信託財産は、委託者や受託者の財産とは分別管理される。

(3)税務上は受益者が所有者とみなされる。

家族信託の活用例

ごくごくシンプルな例で見てみましょう。

Aさん(80)が所有する賃貸アパートや金融資産を信託財産とし
長男であるBさんを受託者、
受益者をAさん自身とする信託契約を締結するとします。

これにより信託財産の法律上の所有者は
受託者であるBさんになり

以後は信託財産の管理・運用は受託者であるBさんが
行うことになります。
※具体的な管理・運用・処分の方法などは信託契約で定めることができます。


信託設定後は、仮にAさんが認知症などになったとしても

アパート経営に支障が出ることもなく
Aさんは継続して賃料収入を受け取れて
生活費に充てることが可能となります。

上記はごく簡略化した説明ですが
認知症になってしまうと、賃貸契約をはじめ
管理会社との契約、修繕関連や物件の売却に関する契約など
あらゆる法律行為ができなくなってしまう*ところ
*民法3条の2

早めに家族信託の仕組みを活用することで
認知症による資産凍結を防ぎ
ある程度自分の意向に沿った財産管理も可能となります。

税務上の論点

1.税務署への提出書類

(1)信託の計算書
受託者は、信託財産に係る収益の額の合計額が3万円
(計算期間が1年未満の場合は1万5千円)以下であるなど
一定の場合を除き、毎年1月31日までに前年の信託財産の状況等を記載した
「信託の計算書」及びその合計表を提出しなければなりません。
「信託の計算書」(国税庁ウェブサイトより)


(2)不動産所得に関する明細書
受益者は、信託から生じる不動産所得がある場合には、
信託ごとに作成した収支内訳書(不動産所得用)または
損益計算書(青色申告決算書 不動産所得用)を確定申告書に添付して
提出しなければなりません。
たとえば、賃貸物件の一部についてのみ家族信託を設定した場合は
信託していない物件とは別にこれらの書類を作成する必要があります。
「信託のポイント」の(3)に記載のとおり、税務上は受益者が財産の所有者と
みなされるため、上記の例でアパートの賃料などは信託設定後も受益者であるAさんの
収入として不動産所得の申告を引き続き行うことになりますが
このように信託財産については区分して明細を作成しなければならなくなります。


(3)信託に関する受益者別(委託者別)調書
受託者は、信託について税務上贈与や遺贈と認識される事由が生じた場合、
信託財産の価額が相続税評価額で50万円超のときは、税務署長に対し
翌月末日までに「信託に関する受益者別(委託者別)調書」及びその合計表を
提出しなければなりません。(相続税法59条③、相続税法施行規則30条)
信託に関する受益者別(委託者別)調書(同合計表)


2.税務上の留意点

(1) 不動産所得の損失の取扱い
信託財産から生じた損失は、原則として損金(費用)になりますが
その損失が不動産所得に関するものである場合、
2006年(平成18年)以後は、不動産所得の計算上なかったものと
みなされ、他の所得との損益通算ができないこととされました。
(租税特別措置法41の4の2①)

(2) 贈与があったものとみなされる場合
「信託のポイント」に記載のとおり
税務上は受益者が信託財産の所有者とみなされることから
委託者以外の者が対価を払わずに受益者となる信託を設定した場合には
委託者から受益者に対して贈与があったものとみなされることになります。
(相続税法9条の2①)
信託期間中に受益者が変更されたり、信託終了時に受益者以外の者が
残余財産の帰属権利者として給付を受ける場合にも
これらの者に対して贈与があったものとみなされるので注意が必要です。

まとめ

「家族信託」はうまく活用すれば、認知症などによる資産凍結を防いだり
財産の管理や次世代への円滑な承継をはかることが可能になる便利な仕組みですが

税務上の論点なども多く、知らなかったことで想定外の不利益を被ったり
思わぬところで課税が発生したりすることもあるため


設定にあたっては、家族信託の実務に精通した専門家に相談されることをおすすめします。

この記事を書いた人

堀 亜砂子

堀 亜砂子

税理士・相続対策コンサルタント
~想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人

税理士歴24年、法人・個人含め13,000件以上の相談対応。
個人事務所、ビッグ4税理士法人、外資系事業会社、国税不服審判所、
資産税系税理士法人を経て2023年独立。

将来を約束した恋人が30代で急死、
その後も尊敬する上司の急逝、実母の他界など、
大切な人が突然この世からいなくなる経験を重ねたことから
生前に想いをしっかり伝え合い
その日のためにできる限りの備えをしておくことの
大切さを多くの人に伝えるべく活動しています。