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相続対策コンサルタント
堀亜砂子です!
マイナスの財産も引き継ぐのが「相続」
民法において「相続」とは、
亡くなった方(被相続人)の財産を相続人が引き継ぐことを言います。
ここで「財産」とは、すべての権利及び義務を指し
預貯金、有価証券、不動産、債権(売掛金や貸付金)などの
いわゆるプラスの財産に加えて、
マイナスの財産として、債務(買掛金、借入金や預り敷金)も含まれます。
したがってもし被相続人が亡くなった時点で多額の借金をしていた場合には
原則として相続人がその借金も引き継ぐことになります。
「故人が好き放題生きて作った借金なのに
なんで残された人が引き継がなくちゃいけないの???」
・・・と理不尽に思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
これについては、相続放棄という方法があります。
相続放棄とは?
相続が開始した場合,相続人は次の三つのうちのいずれかを選択できます。
- 相続人が被相続人(亡くなった方)の土地の所有権等の権利や借金等の義務をすべて受け継ぐ単純承認
- 相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない相続放棄
- 被相続人の債務がどの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合等に,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ限定承認
相続人が2の相続放棄又は3の限定承認をするには、
「一定の期限」までに家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません。
その「一定の期限」は民法で「3か月以内」と定められており、
この期間を一般的に「熟慮期間」と言います。
熟慮期間は必ずしも亡くなった日から3か月以内とは限りません。
民法の規定は次のとおりです。
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、
相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。
ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
これによれば、例えば若いころに家出して長いあいだ音信不通だった息子が
父親が亡くなったことを半年後に知ったとしたら
その息子にとっての相続放棄の期限は
父親が亡くなってから9か月(= 6か月+3か月)以内ということになります。
相続放棄をするには「相続放棄申述書」という書面に
被相続人や放棄する相続人の戸籍などのさまざまな必要書類を添付して
期限までに家庭裁判所に提出する必要があります。
そして申述書の提出のあとに家庭裁判所から届く「照会書」に回答して返送し
問題なければ「相続放棄申述受理書」が届くことで
正式に相続放棄が認められたことになります。
手続の概要は相続放棄の申述(裁判所ウェブサイト)を参照ください。
相続放棄のポイント
さらに、相続放棄に関して意外と知られていなかったり、
勘違いされたりしているポイントには次のようなものがあります。
1.プラスの財産はもらって借金だけ放棄することはできない
2.相続が開始したことを知りながら預金を引き出すなど、財産を処分していたら相続放棄は認められない
3.他の相続人に対して「自分は相続放棄する」と伝えるだけでは放棄したことにはならない
4.複数の相続人の一人が相続放棄すると、借金は他の相続人に引き継がれる
5.相続放棄したあと多額の財産が見つかったとしても放棄は撤回できない※
※法律上、放棄の撤回はできませんが取消しはできるとされています。(民法919条)
例えば脅されて放棄してしまった場合などは取り消せる可能性があります。
あとから財産が見つかった場合も理論上は取り消すことができると言えますが、
判断に関して重大な錯誤があった場合など、取消しが認められるためのハードルは低くありません。
まとめ
相続放棄をすべきかの判断のためには被相続人の財産構成を知ることが重要ですが、
亡くなってから49日法要まではお葬式の手配や様々な手続きで落ち着く暇もなく
あっという間に時間が経ってしまうものだと思います。
とすると3か月という熟慮期間はとても短いのではないでしょうか。
相続放棄の手続き自体は自分で行うことも可能ですが
忙しくて時間が取れない中、期限が迫っていたり、
財産関係が複雑でそもそも相続放棄すべきか迷っている場合などは
弁護士や司法書士などの専門家に相談するのがより安心と言えます。