災害に遭った場合の相続税について

政府は、1月11日に 能登半島地震を激甚災害と特定非常災害に指定しました。

さらに、翌12日には国税庁から、富山県及び石川県に納税地を有する
すべての納税者(法人を含む)指定して、相続税を含むすべての税目について
令和6年1月1日以降に到来する申告・納付等の期限を自動的に延長するとの告示が出され、
いつまで延長するかについては、今後被災者の状況に充分配慮して検討するとしています。

なお、今回指定された富山県及び石川県以外の地域の納税者についても、申請により、
申告・納付等の期限を延長することが可能で、その申請は、当初の期限を経過して、
状況が落ち着いた後に申告・納付等と同時に行ってもよいこととされました。

特定非常災害

「特定非常災害」とは、著しく異常かつ激甚な非常災害として
法律*に基づき政府が指定した災害をいいます。
*特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律
(「特定非常災害特別措置法」)

特定非常災害に指定されると、被災者の生活再建を図るための
さまざまな行政上の特例措置が特定非常災害特別措置法に基づいて適用されます。

例えば運転免許証の更新時期が過ぎても有効期間を延長できたり
法人が債務超過に陥っても一定期間破産手続き開始を待ってくれたり

相続に関しては、自己のために相続があったことを知った日から3か月以内と
される相続放棄の期限が延長されたりします。

ちなみにこれまでに特定非常災害に指定された災害は下記のとおりで
今回の能登半島地震が8例目とのことです。

阪神・淡路大震災(1995年)、新潟県中越地震(2004年)、
東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)、西日本豪雨(2018年)、
台風19号(2019年)、令和2年(2020年)7月豪雨

なお、「激甚災害(げきじんさいがい)」とは、豪雨や地震、台風などで著しい被害があり、
復旧事業を進める自治体への財政支援が必要と判断される災害のことで、
も法律**に基づいて政府が指定します。
**激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(「激甚災害法」)

申告期限の延長

相続税の申告書は、被相続人が死亡したことを知った日(通常は死亡の日)の翌日から
10ヶ月以内に行うことになっています。

大切な人が亡くなって、悲しみの中で慣れない手続きに追われ、ただでさえ10ヶ月以内という
期限は十分とは言えないところ、被災した場合には特に、相続財産の確認などにも時間がかかり、
期限内に申告・納付することが困難になることが考えられます。

これに関して、国税に関する基本事項を定めた「国税通則法」において
災害その他やむを得ない事情があった場合には、申告等の期限を一定の期間延長すると
規定されています。

今回の能登半島地震に関する上記の申告期限の延長も、これに基づくものです。
(国税通則法第11条、国税通則法施行令第3条1項及び3項)

申告期限の延長自体は、特定非常災害に指定されることが直接的な要件では
ありませんが、特定非常災害に指定された場合には、国税通則法の規定により
申告等の期限が延長される可能性が高いと考えられます。

なお、相続税の場合の納税地は、相続人ではなく、被相続人の住所地とされているため注意が必要です。

被害を受けた財産の評価

特定土地等・特定株式等の特例

特定非常災害に係る一定の地域(「特定地域」)に所在する土地等(「特定土地等」)や
特定地域内にある動産(金銭及び有価証券を除く)及び不動産等が保有財産の10分の3以上である
法人の株式(「特定株式等」※上場株式等を除く)については、相続時の時価ではなく、

特定非常災害発生直後の価額(土地等の場合は路線価に一定の調整率を乗じた価額)によることが
できるとされています。

相続財産が被災した場合の災害減免措置

災害により被害を受けた相続財産については、一定の要件を満たせば
以下のとおり、災害減免措置を受けることが可能です。

《申告期限前に被害を受けた場合》

災害減免法の規定による一定の明細書を相続税の申告書等に添付して、
税務署に提出することで、課税財産価額が減額されます。

《申告期限後に被害を受けた場合》

災害減免法の規定による一定の明細書をを記載し、
災害のやんだ日から2カ月以内に税務署に提出することで一定の相続税額が免除されます。

★相続税に関する災害減免措置の要件★

下記①または②のいずれかに該当すること。

①相続税の課税価格の計算の基礎となった財産の価額(債務控除後の価額)のうちに
被害を受けた部分の価額として一定の方法で算定した価額の占める割合が10分の1以上であること。

②相続税の課税価格の計算の基礎となった動産等の価額(債務控除後の価額)のうち
当該動産等について被害を受けた部分の価額として一定の方法で算定した価額の占める割合が
10分の1以上であること

まとめ

ここでは極力詳細を省き、簡略化した説明にとどめておりますが、

災害に遭った場合には、被害の状況に応じて申告期限が延長されたり、
減免措置の適用が可能です。

延長期限や減免措置適用の有無については、国税庁のウェブサイトを確認したり
税務署または税理士等の専門家へ相談することをおすすめします。

この記事を書いた人

堀 亜砂子

堀 亜砂子

税理士・相続対策コンサルタント
~想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人

税理士歴24年、法人・個人含め13,000件以上の相談対応。
個人事務所、ビッグ4税理士法人、外資系事業会社、国税不服審判所、
資産税系税理士法人を経て2023年独立。

将来を約束した恋人が30代で急死、
その後も尊敬する上司の急逝、実母の他界など、
大切な人が突然この世からいなくなる経験を重ねたことから
生前に想いをしっかり伝え合い
その日のためにできる限りの備えをしておくことの
大切さを多くの人に伝えるべく活動しています。