
豊かさを未来へ繋ぐ案内人
相続対策コンサルタント
堀亜砂子です!
さて今日は
被相続人が亡くなったときにビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)を保有していたらどうなるのかというお話。
相続税はかかる?
相続税法では、個人が、金銭に見積もることができる経済的価値のある財産を相続等により取得した場合には、相続税の課税対象となることとされています。
暗号資産については決済法*上、
*資金決済に関する法律
「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することが できる財産的価値」(資金決済に関する法律第二条14項より)と規定されていることから、被相続人から相続等により暗号資産を取得した場合には、相続税が課されることになります。
(国税庁:暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)4-1)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/virtual_currency_faq_03.pdf
暗号資産の相続手続き
それでは、実際の相続手続きに関してはどのように行ったらよいのでしょうか?
被相続人が国内の取引所に口座を持っている場合には、その取引所に連絡をすることで相続手続きを進めることができます。
残高証明書も発行してもらえるので、基本的には株式などと同様に処理できることが想定されます。
例えば暗号資産交換業者として金融庁の登録を受けているコインチェック株式会社では、相続手続きについて下記のように案内しています。
相続手続きについて教えてください
(コインチェック株式会社ウェブサイト「よくある質問」より)
これに対して、海外の取引所を含む日本の金融庁の登録を受けていない取引所の場合は、相続手続きへの対応が未整備である可能性もあるため留意が必要です。
暗号資産を売却したら・・・
それでは、相続した暗号資産を売却した場合はどうなるでしょう?
現時点では、暗号資産の売却による利益の課税方法は、上場株式等の売却のように一律20%(+復興特別所得税0.315%)
というわけにはいかず、「雑所得」として他の所得とあわせて累進税率によって課税されることとされています。
売却損益の計算については次のとおりです。
(売却損益の計算)
売却価額 - 取得原価
売ったときの価額から買ったときの価額を引いて利益(損失)を計算するというのは道理かと思いますが、ここで注意したいのは、相続により取得した財産については、被相続人が買ったときの価額を引き継ぐこととされていることです。
これに対し、令和6年12月の「暗号資産等に関する税務上の取り扱いについて(FAQ)」の「1-5 暗号資産の取得価格」では以下のように示されています。(①、②、⑤は省略)
(国税庁:暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)1-5)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/virtual_currency_faq_03.pdf
③贈与又は遺贈により取得した場合(次の④の場合を除く。)
贈与又は遺贈の時の価額(時価)
④相続人に対する死因贈与、相続、包括遺贈又は相続人に対する特定遺贈により取得した場合
被相続人の死亡の時に、その被相続人が暗号資産について選択していた方法により評価した金額(被相続人が死亡時に保有する暗号資産の評価額)
④はぱっと読んだだけではややわかりにくく、相続したときの時価に引き直されるとする解釈の記事なども散見されますが、「被相続人が選択していた計算方法(総平均法や移動平均法など)で算出される取得価額(=おおむね被相続人の取得価額)」すなわち被相続人の取得価額を引き継ぐとする解釈が実務上の主流のようです。
さらに、株式などの場合は、その株式を相続したときに課された相続税の一定額を取得価額に加算する特例が認められていることから、払った相続税のうち一定額分は売却益から引くことができます。
ところが
株式等とは異なり暗号資産についてはこの特例を適用することができません。
つまり暗号資産を相続して相続税を払っても、そのあと売却したときの所得税の計算上、すでに払った相続税はまったく考慮されず二重課税のような状況が生じることになります。
暗号資産は、被相続人が取得したときからかなり高騰していることもありうるため、知らずに相続したらまずは相続税の負担が大きいうえに、納税資金確保のために暗号資産を売却した場合、売却益に対する所得税も多額になる可能性があるため注意が必要といえます。
このように、株式等の場合と課税方法が異なることについてはかねてから問題視され、議論もされていますが令和6年度税制改正でも手当てされませんでした。
暗号資産を贈与した場合
通常は個人間の贈与の場合には、贈与を受ける人(受贈者)に贈与税がかかり、贈与をする人(贈与者)は課税されませんが、暗号資産の贈与の場合には、受贈者に贈与税がかかることに加えて、対価をもらっていないにもかかわらず、贈与者が受贈者に対して時価で売ったものとして所得税が計算されることとされていることにも注意が必要です。
(国税庁:暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)2-10)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/virtual_currency_faq_03.pdf
まとめ
保有する暗号資産の価格が高騰し、莫大な利益を得ることになった人たちは「億り人」などと呼ばれています。
米国では今年(2024年)1月にビットコイン上場投資信託(ETF)が承認され、さらに7月には現物イーサリアムETFが承認され、世界有数の資産運用会社であるブラックロックなどによって運用されていますが、今のところ日本の証券会社等では暗号資産ETFを購入することはできません。
暗号資産の現物とETFとで、売却益に対する課税方法が異なることからも、日本でも米国のように暗号資産ETFが承認されることが期待されています。
「億り人」を夢見て、という人ばかりではないでしょうが、近年では暗号資産に投資する人も増加の傾向にあるようです。
暗号資産について相続以後の課税が過大になりすぎないようにするためにも、可能な限り生前に現金やほかの財産に替えておくことも有効と考えられます。
詳しくは専門家に相談されることをおすすめします。