【成年後見制度が26年ぶりの大改正へ(前編)】~「保護」から「意思尊重」へ~

堀亜砂子
堀亜砂子

想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人
相続対策コンサルタント
堀亜砂子です!

成年後見制度が大きく見直されるというニュースをご存じでしょうか。  

相続や生前対策のご相談を受けていると、
「親が認知症になったら預金は引き出せなくなるのでしょうか」
「成年後見制度を使うと自由がなくなると聞いたことがあります」という声を耳にすることがあります。



実は今、その成年後見制度が制度創設以来最大規模ともいえる大きな転換点を迎えています。
改正法は2026年6月17日に成立し、同月24日に公布されました。
ただし、新しい制度がすぐに始まるわけではなく、施行は一部を除き公布の日から2年6か月以内とされています。



今回は、このほど成立した成年後見制度の改正について、なぜ見直しが行われたのか、どんなふうに変わるのかを整理してみたいと思います。

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分になった方を支援する制度です。
判断能力が低下すると、預金の解約や不動産の売却、介護施設への入所契約、遺産分割協議などが難しくなることがあります。

そのような場合に本人を支援する仕組みとして設けられているのが成年後見制度です。
制度には、判断能力が低下した後に利用する「法定後見制度」と、元気なうちに将来へ備える「任意後見制度」があります。

今回成立した改正法は、法定後見制度と任意後見制度の双方に関わるものであり、成年後見制度全体を大きく見直す内容となっています。

なぜ今、見直しが行われるのか

成年後見制度がスタートしたのは2000年。
四半世紀にわたり、高齢化社会を支える重要な制度として活用されてきました。

一方で、利用者や家族、実務家からは長年さまざまな課題も指摘されてきました。
その代表例が、一度利用すると、原則として亡くなるまで続くという点です。

例えば、認知症などで判断能力が低下した親が施設へ入ることになり、その費用をまかなうために本人名義の自宅を売却する必要が生じたとします。
本人が売買契約を結ぶことが難しい場合には、成年後見制度を利用し、選任された成年後見人が家庭裁判所の許可を得たうえで自宅を売却することがあります。
ところが、売却が終わっても成年後見制度はそこで終了しません。
その後も後見人への報酬が発生し、家庭裁判所への報告も続きます。

また、本人のための制度でありながら、財産を守ることに重点が置かれ、肝心の本人の意思が十分に尊重されにくいという指摘もありました。

こうした課題を受けて、成年後見制度を「一度利用したら終わらない重い制度」のままにするのではなく、本人の意思を尊重しながら、必要な支援を必要な範囲で利用できる制度へ見直そうという議論が進められてきたのです。

現在の法定後見制度は3つに分かれている

現在の法定後見制度には、3つの類型があります。

後見 判断能力が欠けているのが通常の状態
保佐 判断能力が著しく不十分な方
補助 判断能力が不十分な方
(法務省ウェブサイト「成年後見制度・成年後見登記制度Q&A」より)

このように、判断能力の程度によって区分されています。
しかし実際には、その線引きは困難で「どこから後見で、どこから保佐なのか」がわかりにくいという問題もありました。



こうしたことから、法制審議会でも、「まず類型を決める」のではなく、「その人にどのような支援が必要なのか」を中心に考える制度へ見直そうという議論が進められてきました。



また、例えば同じ認知症でも必要な支援の内容は人によって大きく異なります。
預金管理だけ支援が必要な人もいれば、不動産の管理だけ困っている人もいます。
それが現在の制度では、判断能力の程度によって機械的に類型が決まるため、実情に合わないケースもありました。

改正の最大のポイントは「補助を基本とした制度への再編」

今回の改正では、「後見」「保佐」を廃止し、「補助」を基本とした新たな制度へ再編することとされています。
これはかなり大きな変化です。



これまでの「どれくらい判断能力が低下しているか」を基準とした考え方から「どんな支援が必要なのか」を基準に考える仕組みへ変わろうとしています。
つまり、判断能力の程度だけで一律に制度を決めるのではなく、必要な支援だけを受けるという考え方です。

オーダーメイド型の支援へ

例えば、日常生活は問題なく送れているが、不動産売却だけは難しい。そんな方もいらっしゃいます。
あるいは、施設との契約だけ支援が必要な方、預金管理だけ手伝ってほしいというケースもあります。

現在の制度では、判断能力の程度によって後見・保佐・補助のいずれかに分類されるため、本人に必要な支援と制度の内容が必ずしも一致しないことがありました。

今回の改正では、こうした課題を踏まえ、本人に必要な支援を個別に考え、必要な範囲で代理権や同意権などを付与していく仕組みへ見直されます。
つまり、できることまで一律に制限するのではなく、支援が必要な場面に応じて制度を利用するという考え方です。

もちろん、どのような支援を認めるかは家庭裁判所が個別の事情を踏まえて判断することになりますが、
本人が自分で決められることはできるだけ尊重し、必要な部分だけを支えていこうという方向性が、今回の改正の大きな特徴といえるでしょう。

「終われる後見」へ

今回の改正で、もう一つ注目されているのが制度終了の考え方です。

現行制度では、一度利用を開始すると、本人の判断能力が回復しない限り終了できないのが原則です。
しかし現実には、ある特定の手続きを行うためだけに制度を必要としている場合もあります。

例えば、施設入所費用をまかなうために本人名義の自宅を売却するケースでは、売却が終わった後も、現行制度では成年後見制度が原則として続きます。

また、相続の場面でも、相続人の中に認知症などで判断能力が不十分な方がいると、その方は自分で遺産分割協議に参加することが難しくなります。そのため、本人の権利を守るために成年後見制度を利用し、後見人等が関与して遺産分割協議を進めることがあります。

現行制度では、自宅の売却や遺産分割協議といった特定の手続きが終わった後も、成年後見制度が原則として続きます。
改正後は、利用の必要性がなくなれば終了できる仕組みが設けられるため、これらの手続きが終わり、その後は特段の支援が必要なくなったような場合には、制度終了の可能性が広がることになります。
ただし、終了できるかどうかは個々の事情を踏まえ、家庭裁判所が判断することになります。

任意後見制度も変わる

今回の見直しでは、任意後見制度にも改正が予定されています。
現在の任意後見制度は、元気なうちに契約を結んでも、実際に利用するには家庭裁判所による任意後見監督人の選任が必要です。

改正では、一定の場合には任意後見監督人を選任しないことも可能となる仕組みが設けられます。
また、契約内容の変更や一部解除についても柔軟化が図られます。

今回の改正が目指しているもの

今回の改正を見ていて感じるのは、制度の考え方そのものが変わろうとしているということです。



これまでは、「本人を保護する」ことに重点が置かれていました。
もちろんそれは大切です。
しかし近年は、障害者権利条約などの考え方もあり、「本人の意思をできるだけ尊重する」ことが重視されるようになっています。今回の改正は、制度を使いやすくするためだけの見直しではありません。



法制審議会では、本人を一律に保護の対象として捉えるのではなく、本人の意思や希望を丁寧に把握し、
その人に本当に必要な支援を必要な範囲で提供することが繰り返し議論されました。
また、支援が不要になれば制度を終了できることや、本人の状況の変化に応じて柔軟に制度を見直せることも、
今回の改正の重要な柱となっています。

「本人を保護する」という視点はもちろん大切です。
しかしそれだけではなく、
「本人ができることは本人が行い、必要なところだけ支援を受けながら暮らしていく」



今回の改正は、そうした考え方へ大きく舵を切ろうとしているように感じます。

次回は認知症対策の視点から

成年後見制度の見直しは、とても大きな制度改正です。
しかし実際に多くの方が気になるのは、「では自分や親の場合はどうすればよいのか」ではないでしょうか。

認知症になると何ができなくなるのか。成年後見制度だけで十分なのか。家族信託や任意後見はどう違うのか。
次回は、認知症対策や生前対策の視点から、成年後見制度改正が私たちにどのような影響を与えるのかを考えてみたいと思います。

※今回の記事は、成立した改正法の内容を踏まえつつ、法務省の「民法(成年後見等関係)等の改正に関する要綱案」や法制審議会資料なども参考にしています。制度の詳細をご覧になりたい方は、以下をご参照ください。

法務省「民法等の一部を改正する法律案」
法務省「民法(成年後見等関係)等の改正に関する要綱案」
法制審議会 民法(成年後見等関係)部会(法務省)


「突然の別れ」は、誰にとっても他人事ではありません。
だからこそ、“その時”が来る前に、できる準備を。
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この記事を書いた人

堀 亜砂子

堀 亜砂子

税理士・相続対策コンサルタント
~想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人

税理士歴26年、法人・個人含め13,000件以上の相談対応。
個人事務所、ビッグ4税理士法人、外資系事業会社、国税不服審判所、
資産税系税理士法人を経て2023年独立。

将来を約束した恋人が30代で急死、
その後も尊敬する上司の急逝、実母の他界など、
大切な人が突然この世からいなくなる経験を重ねたことから
生前に想いをしっかり伝え合い
その日のためにできる限りの備えをしておくことの
大切さを多くの人に伝えるべく活動しています。