映画『汝、星のごとく』を観て―15年を生きた俳優たちと、描かれなかった時間

堀亜砂子
堀亜砂子

想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人
相続対策コンサルタント
堀亜砂子です!

映画『汝、星のごとく』を観てきました。
2023年の本屋大賞を受賞した凪良ゆうさんの同名小説を、横浜流星さんと広瀬すずさんのダブル主演、藤井道人監督で映画化した作品です。


原作は少し前に、Audibleで聴いていました。
映画化を知り、配役が発表されたときから楽しみにしていました。


原作を通じて自分の中にできあがっていた登場人物たちが、スクリーンの中ではどのように描かれるのか。
実際に鑑賞して、何よりも圧倒されたのは、俳優たちの演技の素晴らしさでした。

もともと私は邦画が好きなのですが、その理由の一つは、日本の俳優さんたちが好きだから。
作品そのものはもちろん、俳優がどのように役を演じ、一人の人物の人生を表現しているのかを見ることも、大きな楽しみなのです。


今回は映画を観た後、公式サイトのプロダクションノートもじっくり読んでみました。
俳優たちの役作りや監督の演出意図など、映画づくりの裏側を知ることができ、とても興味深いものでした。

凪良ゆうさんの描く、さまざまな愛のかたち

凪良ゆうさんの作品については、以前にも『流浪の月』を取り上げてブログを書いたことがあります。
映画『国宝』を観たことをきっかけに、李相日監督の過去作品に興味を持ち、見逃していた『流浪の月』の原作をAudibleで聴いたときです。


かつて誘拐事件の被害者と加害者とされた二人が、15年の歳月を経て再会する物語。
周囲からは理解しがたい二人の関係も、当人たちにとってはかけがえのないものだったのかもしれません。


そのときのブログには、こんなことを書きました。
「なんと名付けたらよいか、わからない。けれど確かに、そこに“在る”もの。」


人と人との関係や感情は、必ずしも世間一般の常識や価値観だけでは説明できるものではありません。
今回、公式プロダクションノートを読んでいて、藤井道人監督が凪良ゆうさんについて語っていた言葉が印象に残りました。

「様々な愛の形をただ受け入れて肯定する」

凪良さんは作品の中だけでなく、ご本人もそのような姿勢を体現しているように感じたのだそうです。
この言葉を目にして、『流浪の月』を聴いたときに感じていたことが、すっと腑に落ちた気がしました。


今回の『汝、星のごとく』にも、簡単には割り切れない愛情や家族関係、さまざまな事情を抱えながら生きる人たちの姿が描かれています。
誰かを大切にすることと、自分の人生を生きることが、必ずしも同じ方向を向くとは限りません。


それぞれの事情や選択を、善悪や正誤だけで簡単に判断することはできない。
そんな人間の複雑さを描いているところにも、凪良ゆうさんの作品の魅力があるとあらためて感じました。

17歳から30代までを演じるということ

物語の舞台は、瀬戸内の島。


それぞれ複雑な家庭環境で育った高校生の青埜櫂(あおのかい・横浜流星)と井上暁海(いのうえあきみ・広瀬すず)が出会い、恋に落ちるところから物語は始まります。


やがて夢を追って東京へ向かう櫂と、島に残る暁海。
二人の17歳から32歳まで、15年間にわたる人生が描かれます。


まず驚いたのは、横浜流星さんも広瀬すずさんも、実年齢ではすでに30歳前後でありながら、17歳の高校生を演じても、ほとんど違和感がなかったことです。制服姿が似合っているというだけではありません。


表情や仕草、声の調子、身体の動かし方。そして、私の気のせいかもしれませんが、肌の質感まで違って見えたのです。
もちろん、メイクや撮影技術の力もあるのでしょう。


それでも、スクリーンの中の二人は、確かに17歳の少年と少女でした。
そして物語が進むにつれて、少しずつ大人の顔になっていきます。


若い頃のあどけなさが消え、さまざまな経験を重ねた人間の表情へと変わっていく。
同じ俳優が演じているのに、そこには確かに15年という歳月が流れていました。


映画を観る前、バラエティ番組で横浜流星さんが役作りのために48kgまで減量したという話を聞いていました。
横浜さんは幼い頃から極真空手に打ち込み、中学時代には世界大会で優勝した経験の持ち主。
空手で培った体重管理の知識や経験があるため、減量には慣れているそうです。


それでも、今回は相当きつかったとのこと。
撮影の終盤には4日間ほど断食や水抜きをして臨んだことも明かしていました。
改めて調べてみると、高校生の櫂を演じる際には62kgまで増量して顔にあどけなさを出し、上京後は57kg、最終的には48kgまで落としたのだそうです。


さらに驚いたのは、今回の映画化が横浜流星さん自身の提案をきっかけに実現したということ。
2022年に原作が刊行されて間もない頃、藤井道人監督に映画化を持ちかけたのだそうです。
それほどまでに櫂という人物を演じたいという、強い思いがあったのでしょう。


15年間の変化を、自らの身体を変えることでも表現する。
健康面では心配になるほどの減量ですが、その徹底した役作りと表現力には、ただただ圧倒されました。

『正体』とのつながり、そして俳優陣の存在感

横浜流星さんと藤井道人監督は、これまでにも数多くの作品でタッグを組んできました。
その一つが、2024年公開の映画『正体』です。


実は私、こちらもAudibleで染井為人さんの原作を聴いています。
殺人事件の容疑者として逃亡する主人公が、潜伏先で名前や姿を変えながら生きていく物語です。


映画版はまだ観ていないのですが、横浜流星さんが主人公を演じていることは知って気になっていました。
『正体』では、別人のように姿を変えながら生きる人物。
そして『汝、星のごとく』では、一人の人物が15年間の歳月を重ねていく姿。
今回の演技を観て、あらためて『正体』の映画版もぜひ観てみたいと思いました。


また、今回の配役で特に気になっていたのが、松村北斗さんの演じる尚人です。
櫂とともに漫画制作に携わる相棒であり、親友でもある尚人。


原作を通じてその人物の歩んだ人生を知っているだけに、松村さんが演じたら、年月を経た「その後」の尚人はどのような姿になるのだろう、と気になっていました。




プロダクションノートによると、藤井監督は櫂と尚人の友情を非常に重要なものと考えていたそうです。
松村さんも、その人物が過ごしてきた時間を踏まえ、話し方など細部にまで工夫を凝らしていたとのこと。


言葉による説明がなくても、そこに至るまでの人生が伝わってくる。俳優の仕事というのは、なんと繊細なのだろうと思いました。


そして、尾野真千子さん、木村佳乃さん、石田ゆり子さん、長谷川博己さん、濱田岳さん、中村アンさんなど、周囲を固める俳優陣の存在感も素晴らしいものでした。




主人公の二人だけではなく、それぞれの登場人物にも事情があり、人生があります。
誰もが単純に善人とも悪人とも言い切れない。その複雑さが、俳優たちの演技によって一層際立っていました。

原作を知っているからこそ楽しめた「余白」

今回、映画を観ていて感じたのは、原作で丁寧に描かれていた登場人物の背景や心情が、映画ではかなり凝縮されているということでした。
長編小説を135分の映画にするのですから、すべてを描くことはできません。


けれど、公式プロダクションノートを読んで、それが単なる上映時間の制約によるものではないことを知りました。
今回、脚本を手がけたのは、大好きなドラマ『きのう何食べた?』などで知られる安達奈緒子さん。


藤井道人監督は、観客の想像力を信じ、余白を大切にした3章構成を提案したのだそうです。
原作のセリフをそのまま再現することよりも、俳優が演じたときに感情がいかに豊かに伝わるかを重視する藤井監督。


一方で、安達さんは登場人物の言葉を大切にし、特に暁海という一人の女性の人物像を丁寧に掘り下げていったといいます。
監督と脚本家がそれぞれの視点から試行錯誤を重ね、原作を映画ならではの表現へと再構築していったと知り、こちらも感銘を受けました。


私は原作をAudibleで聴いていたので、映画では描かれていない出来事や登場人物たちの事情を、思い出したり想像したりしながら観ていました。
短い場面の中に、原作で知っている長い時間や複雑な感情が重なってくる。


そして、俳優たちの表情や仕草、ちょっとした間の取り方から、その人物がどんな思いでそこにいるのかを感じ取る。
原作を知っているからこそ見えてくるものもあれば、映画になったことで初めて感じられるものもありました。


もちろん、原作を知らずに観た方には、また違った受け止め方があるのでしょう。
すべてを説明するのではなく、描かれなかった時間や感情を観客の想像力に委ねる。
そして、その余白を成立させているのが、俳優たちの演技なのだと思います。


言葉にしなくても、伝わってくるものがある。
以前『流浪の月』について書いた「なんと名付けたらよいかわからない」の尊さとも、どこか通じる気がしました。

15年間の人生を見届けて

『汝、星のごとく』は恋愛を軸とした物語ですが、私には、単純な恋愛映画とは思えませんでした。
親子の関係、家族への責任、仕事や夢、そして自分自身の人生。


誰かを大切にしながら、自分の人生をどう生きるのか。
そこには、簡単には答えの出ない問題がいくつもあります。


人はそれぞれに与えられた環境の中で、そのときの自分にできる選択を重ねながら生きていくのでしょう。
そして、誰かの選択を、外側から簡単に評価したり、正解を決めつけたりすることはできません。


凪良ゆうさんの描く、さまざまな愛や生き方を受け入れようとするまなざし。
それは、私自身が大切にしたいと思っていることにも重なるように感じます。


それにしても、横浜流星さんと広瀬すずさんをはじめとする俳優陣の演技には、心から感動しました。
原作では言葉を通じて思い描いていた登場人物たちが、スクリーンの中では確かにそこに生きているように感じられたのです。


横浜流星さんと広瀬すずさんは、映画『流浪の月』でも共演しています。
同じ凪良ゆうさんの作品で、また違った人間の複雑さや愛のかたちを演じる二人。
こうしたつながりも、映画を観る楽しみの一つです。


今回、鑑賞後にプロダクションノートを読んだことで、俳優たちがどれほど真摯に役と向き合い、監督や制作陣がどのような思いで作品をつくり上げたのかを知ることができました。


邦画が好きで、日本の俳優さんたちが好き。
そんな私にとって、映画の楽しみがさらに深まる経験でした。


原作には原作の、映画には映画の魅力があります。
そして、あえて描かれなかった時間に、自分の想像を重ねる楽しみも。


15年間の人生を、これほど豊かに表現できる俳優という仕事。
その素晴らしさをも改めて感じた、濃密な135分でした。







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この記事を書いた人

堀 亜砂子

堀 亜砂子

税理士・相続対策コンサルタント
~想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人

税理士歴26年、法人・個人含め13,000件以上の相談対応。
個人事務所、ビッグ4税理士法人、外資系事業会社、国税不服審判所、
資産税系税理士法人を経て2023年独立。

将来を約束した恋人が30代で急死、
その後も尊敬する上司の急逝、実母の他界など、
大切な人が突然この世からいなくなる経験を重ねたことから
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