【成年後見制度が26年ぶりの大改正へ(後編)】~制度のその先へ。認知症対策で本当に大切なこと~

堀亜砂子
堀亜砂子

想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人
相続対策コンサルタント
堀亜砂子です!

先日のブログ(前編)では、成年後見制度が制度創設以来最大規模ともいえる見直しを迎えていることや、その背景についてご紹介しました。


今回の改正は、「どれくらい判断能力が低下しているか」ではなく、「その人にどのような支援が必要なのか」を重視する方向へ大きく舵を切るものです。



この転換は、大変意義深いものですが、認知症への備えの方法そのものが大きく変わるわけではありません。
変わるのは、制度の根底にある考え方です。
「本人を保護する」ことに加え、「本人の意思を尊重する」という視点が、これまで以上に重視されるようになります。

だからこそ、判断能力が低下してから制度に委ねるだけではなく、元気なうちに自分の希望を考え、家族や信頼できる人に伝えておくことが、より大切になります。
(後編)では制度そのものではなく、こうした「認知症への備え」という視点から考えてみたいと思います。

認知症になると本当に困るのは何か?

認知症というと、体験した出来事そのものを忘れてしまう「物忘れ」の症状を思い浮かべる方が多いかもしれません。
ですが、法律や相続の場面で問題となるのは、「判断能力の低下」です。
判断能力が不十分になると、本人の意思確認を要する、次のような法律行為が難しくなります。

  • 預金の解約
  • 不動産の売却
  • 介護施設への入所契約
  • 賃貸物件の管理や修繕契約
  • 遺産分割協議



実際に「母が認知症になってしまい、実家の売却ができない」
「父名義の預金を動かせず困っている」といったお声を耳にします。

「家族ならすぐに手続きできる」と思われがちですが、法律上はそう簡単ではありません。
認知症は、生活だけでなく、財産管理や相続にも大きな影響を及ぼすのです。

成年後見制度だけで解決するわけではない

こうした場面で活用が期待されるのが成年後見制度です。
前編でご紹介したように、今回の改正によって制度はより利用しやすい方向へ見直されます。

それでも、成年後見制度は決して万能ではありません。
成年後見制度は「家族が困らないようにする制度」ではなく、「本人の権利や財産を守るための制度」です。
そのため、成年後見人は常に本人の利益を最優先に考えて行動しなければなりません。

例えば、相続税対策のための生前贈与を進めたり、子どもへの資金援助を続けたり、家族の都合を優先して財産を移したりすることは、本人の利益にならないと判断されれば認められない場合があります。



今回の改正でも、「本人を守ること」に加え、「本人の意思を尊重すること」がより重視されるようになります。
だからこそ、制度に頼るだけではなく、本人の想いを元気なうちに形にしておくことが、これまで以上に大切になってくるのです。

元気なうちからできる認知症対策

認知症への備えには、判断能力が十分あるうちから始められるものもあります。



例えば、前編でもご紹介したように、任意後見制度は、元気なうちから信頼できる親族や友人、専門職などに、「将来、自分の支援をお願いしたい」という意思を、あらかじめ契約で残しておくことができます。



また、成年後見制度とは別に、家族信託という仕組みもあります。
家族信託は、元気なうちに財産管理を信頼できる家族などへ託しておく仕組みです。
例えば賃貸不動産を所有している方であれば、将来認知症になった場合でも、受託者が信託契約に基づいて賃貸経営や修繕、売却などを続けられる可能性があります。



こちら👇で少し詳しく書いています。


家族信託では、介護施設への入所契約や、入退院の手続きなどの、身上監護と呼ばれる生活面の支援は行えません。
これに対して、成年後見制度には身上監護の機能があります。
任意後見契約が実際に効力を生じるのは、本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した後です。
また、任意後見制度と家族信託とでは、対象となる事務や財産、支援する人に与えられる権限、制度の目的も異なります。

このように、それぞれの制度には異なる役割があります。
どれか一つが優れているということではなく、ご本人の希望や財産の内容、家族構成に応じて選択したり、組み合わせたりすることが大切です。

母の姿から学んだこと

人の老いを支える制度などについて学ぶたびに、亡き母のことを思い出します。



母は生前、預金や証券口座の情報、保険の契約内容だけでなく、葬儀や延命治療についての希望も少しずつ整理して記録を残してくれていました。

当時は、「ずいぶん几帳面だな」くらいに思っていました。
それどころか、まだ元気なうちから事あるごとに、お金や財産のことを伝えてくれようとする母を、うとましく感じてしまったことさえありました。



けれど、実際に母が体調を崩し、介護施設への入所やさまざまな手続きが必要になったとき、その準備に何度も助けられました。



もちろん、それだけですべてが解決したわけではありません。
それでも、母の意思がわかっていたからこそ、迷わず判断できた場面がたくさんありました。
制度に助けられたというよりも、母が残してくれた「想い」に助けられたという気持ちの方が、私にはずっと強く残っています。

制度はもちろん大切だけど…

今回の成年後見制度改正は、「本人を保護する」という考え方に加え、「本人の意思を尊重する」という方向へ大きく舵を切るものです。



制度がより利用しやすくなることは、多くの方にとって前向きな変化でしょう。
けれど、制度はあくまでも本人の暮らしや想いを支えるための仕組みです。

誰に財産を託したいのか。
どのような介護を望むのか。
自宅はどうしてほしいのか。
延命治療についてどう考えているのか。

こうしたことは、制度が決めてくれるものではありません。
だからこそ、本当に大切なのは、制度を知るだけではなく、元気なうちに、自分の想いを伝え、必要な備えをしておくことなのです。
それが、これからの認知症対策の第一歩なのだと、私は思います。

認知症や介護は、誰にでも起こり得ます。
だからこそ、「まだ元気だから大丈夫」ではなく、「元気な今だからこそできること」を少しずつ始めてみてはいかがでしょうか。

どれほど制度が整っていても、本人の想いがわからなければ家族は迷います。
制度は安心を支える大切な土台です。
けれど、家族にとって本当の安心につながるのは、元気なうちに想いを伝え合っておくこと。
今回の制度改正は、その大切さをあらためて私たちに教えてくれているように感じています。


「突然の別れ」は、誰にとっても他人事ではありません。
だからこそ、“その時”が来る前に、できる準備を。
あなたやご家族の大切な想いを、

静かに、でも確かに未来へつなげるために─


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この記事を書いた人

堀 亜砂子

堀 亜砂子

税理士・相続対策コンサルタント
~想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人

税理士歴26年、法人・個人含め13,000件以上の相談対応。
個人事務所、ビッグ4税理士法人、外資系事業会社、国税不服審判所、
資産税系税理士法人を経て2023年独立。

将来を約束した恋人が30代で急死、
その後も尊敬する上司の急逝、実母の他界など、
大切な人が突然この世からいなくなる経験を重ねたことから
生前に想いをしっかり伝え合い
その日のためにできる限りの備えをしておくことの
大切さを多くの人に伝えるべく活動しています。