家族サポート証券口座は誰のための制度?~導入前に家族で話しておきたいこと~

堀亜砂子
堀亜砂子

想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人
相続対策コンサルタント
堀亜砂子です!

以前のブログで「家族サポート証券口座」という仕組みについてご紹介しました。  

前回の記事を公開した2025年10月以降、この制度は少しずつ広がりを見せています。
日本証券業協会は2026年1月に制度要綱を改正し、制度を導入する証券会社も徐々に増えてきました。

そこで今回は、現在の導入状況を確認するとともに、実際に利用する前に家族で何を話し合い、どのようなことを決めておく必要があるのか、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。

家族サポート証券口座とは、本人が元気なうちに信頼できる家族を代理人として決め、公正証書で任意代理契約を結んでおくことで、将来、認知症などにより判断能力が低下した場合でも、証券口座の資産を動かしやすくする制度です。

証券口座の名義は本人のまま。
それでいて、あらかじめ決めた範囲で、家族代理人が売却、解約、出金、場合によっては運用などを行うことができるため、介護費用や生活費を確保しやすくなる点に大きな意味があります。

ただし、この制度は「便利そうだから、とりあえず作っておけば安心」というものではありません。
むしろ大切なのは、制度そのものよりも、その前に家族で何を話し合っておくかです。

2026年7月末現在の導入状況

前回の記事を公開した2025年10月時点では、制度を導入していたのは、今村証券、香川証券、丸八証券の3社でした。

その後、新たにスターツ証券、むさし証券、安藤証券、日産証券が取扱いを開始し、2026年8月配信日現在で、日本証券業協会のウェブサイトに掲載されている取扱会社は次の7社となっています。

✅今村証券株式会社 2025年7月14日開始
✅香川証券株式会社 2025年9月1日開始
✅丸八証券株式会社 2025年9月22日開始
✅スターツ証券株式会社 2026年1月5日開始
✅むさし証券株式会社 2026年2月1日開始
✅安藤証券株式会社 2026年2月2日開始
✅日産証券株式会社 2026年5月20日開始



このように、取扱会社は前回の記事を書いた時点の3社から7社へと増えています。
一方で、大手証券会社や大手ネット証券を含め、まだこの制度を利用できない証券会社も多いのが現状です。

また、制度要綱では共通する基本的な枠組みが示されていますが、対象となる商品や取引の範囲、必要書類、手続きなどについては、各証券会社がそれぞれ定める部分もあります。

制度を検討する際には、仕組みを知るだけでなく、現在利用している証券会社が取り扱っているか、どのような条件で利用できるかを個別に確認する必要があります。

資産があるのに使えないという問題

この制度が作られた背景には、高齢期における「資産活用」の問題があります。
高齢期の財産管理で大きな問題になるのが、資産はあるのに本人のために使えなくなることです。

預貯金であれば、家族がキャッシュカードを預かっていて、実務上なんとか支払いをしているケースもあります。
もちろん、それがよいという意味ではありません。
本来、本人の財産は本人のために使われるべきものですし、家族が勝手に使ってよいものではありません。
ただ、現実には入院費、施設費、介護サービスの費用など、待ったなしで支払いが発生します。

一方、証券口座にある株式や投資信託などは、本人の判断能力が低下すると、売却や解約が難しくなることがあります。
そうなると、まとまった資産が証券口座にあるにもかかわらず、本人の生活費や介護費用に充てられないという状況が起こり得ます。



家族サポート証券口座は、まさにこのような場面に備えるための仕組みです。

家族代理人に何を任せるのか

家族サポート証券口座では、本人が元気なうちに、家族代理人を決めます。
ここで大切なのは、「誰を代理人にするか」だけではありません。
その代理人に、何を、どこまで任せるのか。
ここを曖昧にしたまま制度だけ整えても、後々のトラブルにつながるおそれがあります。

たとえば、次のようなことです。

✅保有している株式や投資信託を、どのような場合に売却してよいのか。
✅介護施設への入居費用が必要になったときは、どの資産から取り崩すのか。
✅値下がりしている投資信託でも、生活費が必要なら売却してよいのか。
✅本人が希望する場合、代理人による運用を認めるのか。
✅配当や分配金はどのように使うのか。

これらは、いざ判断能力が低下してからでは、本人の意思を確認することが難しくなります。
だからこそ、本人が元気なうちに、本人と家族代理人で考えをすり合わせたうえで、証券会社との事前相談を通じて、管理・運用の方針を具体的に整理しておくことが重要です。

「家族のため」ではなく「本人のため」

ここで忘れてはいけないのは、家族サポート証券口座は、あくまでも本人のための制度だということです。
親の証券口座を、子どもが自由に使えるようにする制度ではありません。
将来の相続を見据えて、子どもが有利になるように資産を動かす制度でもありません。

本人の生活、医療、介護、日々の安心のために、本人の財産を適切に使えるようにする仕組みです。
ここを取り違えると、とても危険です。



制度要綱でも、売却代金などの出金先は原則として本人名義の金融機関口座とされ、証券会社は、家族代理人から出金の指図を受けた際に、その目的が契約内容に沿うものであるかを確認することとされています。
家族代理人が自由に資金を受け取り、使える仕組みではないのです。

たとえば、代理人となった長男が、親の介護費用のためと言いながら、実際には自分に都合のよいタイミングで資産を売却してしまったら、他の兄弟姉妹から見れば、「本当に親のために使ったの?」という不信感が生まれます。

たとえ代理人本人に悪意がなかったとしても、説明が足りなければ、相続のときに疑念が残ります。
生前の財産管理の不透明さは、相続トラブルの火種になりやすいのです。

他の家族にも共有しておきたいこと

家族サポート証券口座は、本人と家族代理人との契約を前提とする制度です。
そのため、必ずしもすべての推定相続人の同意が必要になるわけではありません。
しかし、実務上は、他の家族への共有も大切です。

もちろん、すべての財産の詳細を全員に開示すべきという意味ではありません。
家庭ごとの事情もありますし、親子関係、兄弟姉妹関係もさまざまです。

ただ、少なくとも次のようなことは、できる範囲でルールを決めて家族間で共有しておいたほうがよいでしょう。

☑️本人の生活費や介護費用のために、証券口座の資産を使う可能性があること。
☑️家族代理人を誰にするのか。
☑️資産を売却・解約する場合の大まかな方針。
☑️使ったお金について、記録を残しておくこと。



このような共有があるだけでも、後から「勝手にやった」「知らなかった」という感情的な対立を防ぎやすくなります。
相続でもめる原因は、金額そのものだけではありません。

「自分だけ知らされていなかった」
「兄だけが管理していた」
「勝手に売却してしまった」

こうした不信感が、争いの入口になることも多いのです。

記録を残すことが代理人を守る

家族代理人になった人は、本人のために動く立場です。
しかし、親のために一生懸命対応していたとしても、後から他の相続人に疑われることがあります。

「なぜこの株を売ったの?」
「この出金は何に使ったの?」
「もっと高く売れたのでは?」
「売却資金は本当に母のために使ったの?」

このようなことを言われたとき、記録がなければ説明が難しくなります。
だからこそ、家族代理人は、本人の財産を動かしたときには記録を残しておくことが大切です。

いつ、何を、いくらで売却したのか。そのお金を何に使ったのか。
医療費、介護施設費、生活費、税金、家の維持費など、本人のために使ったことがわかる領収書や明細を残しておく。
証券会社に説明した出金目的だけでなく、その後、実際に何に使ったのかがわかる資料まで残しておくことが大切です。

これは、本人の財産を守るためでもあり、代理人自身を守るためでもあります。
親のためにやったのに、相続のときに責められるのは、介護や財産管理を担った家族にとって、とてもつらいことです。
だからこそ、制度を使うなら、記録を残すところまでセットで考えておきたいのです。

家族信託や任意後見との違い

認知症による資産凍結への備えとしては、家族サポート証券口座のほかにも、家族信託や任意後見制度などがあります。
これらはそれぞれ役割が異なります。

家族信託は、不動産や預貯金なども含めて、より広い財産管理を設計できる仕組みです。
一方で、契約内容の設計や税務上の検討も必要で、専門家を交えた慎重な準備が欠かせません。

任意後見制度は、本人が元気なうちに将来の後見人を決めておく公的な制度です。本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が生じます。
公的な監督が入る安心感がある一方、本人の財産を守ることが重視されるため、積極的な運用や柔軟な財産活用には一定の制約があります。
成年後見制度については、現在、大きな見直しが進められていますが、家族サポート証券口座とは制度の目的や仕組みが異なります。

これに対して、家族サポート証券口座は、証券口座の資産に特化した仕組みです。
対象は限られますが、証券資産を本人の生活費や介護費用に活用しやすくする点では、実務的な意味があります。

どの制度が最も優れているということではありません。
不動産が多いのか。預貯金が中心なのか。証券口座にまとまった資産があるのか。
家族関係は良好なのか。誰が日常的に支援できるのか。
こうした状況によって、選ぶべき方法は変わります。

税務上の視点も忘れずに

家族サポート証券口座を利用しても、証券口座の名義は本人のままです。
代理人が取引を行うとしても、本人の財産を本人のために管理・使用する仕組みであり、代理人に財産が移るわけではありません。

したがって、制度を利用しただけで、ただちに贈与税や相続税が課されるというものではありません。
ただし、実際の資金の流れには注意が必要です。

本人の証券口座から出金したお金が、本人の医療費や介護費、生活費に使われているのであれば、基本的には本人の財産を本人のために使っていることになります。
一方で、そのお金が家族代理人自身の生活費や、他の家族のために無償で使われていた場合には、その資金の流れや使途によって、贈与税の問題が生じる可能性があります。

また、本人が亡くなった時点で残っている証券口座の資産は、当然ながら相続財産になります。
家族サポート証券口座は、”相続税”対策などではありません。
あくまでも、本人の判断能力が低下した後も、本人のために証券資産を活用しやすくするための制度です。
ここを混同しないことが大切です。

導入前に確認したいこと

家族サポート証券口座を検討するなら、まず次の点を確認しておくとよいでしょう。

✅現在利用している証券会社が、この制度を取り扱っているか。
✅本人の証券口座に、将来の生活費や介護費として使う可能性のある資産があるか。
✅家族代理人になれる人がいるか。
✅その人に財産管理を任せても、他の家族が納得しやすいか。
✅売却や出金の方針を、本人が元気なうちに言葉にできるか。
✅取引や支払いの記録を残す体制を作れるか。



制度を導入すること自体が目的ではなく、本人の意思を尊重しながら、将来、困らないようにすることが目的です。



なお、前述のとおり、この制度の取扱会社はまだ限られています。
また、同じ制度であっても、対象となる商品や取引の範囲、必要書類などは証券会社によって異なります。
また、公正証書の作成や代理権の内容についても、各社で取扱いが異なる場合があります。

制度を利用したいと思ったら、まずは利用している証券会社へ取扱状況や手続きの内容を確認し、公正証書の作成については公証役場へ相談します。
契約内容や他の財産管理制度との組み合わせについて検討が必要な場合には、弁護士や司法書士、税理士などの専門家にも相談するとよいでしょう。

まとめ

家族サポート証券口座は、認知症などによる証券資産の凍結リスクに備える新しい選択肢です。
証券口座にまとまった資産がある方にとっては、将来の介護費用や生活費を確保するための現実的な備えになるでしょう。

ただし、この制度も万能ではありません。
不動産や預貯金、保険、相続全体の設計までカバーできるものではありませんし、家族間の信頼関係を自動的に整えてくれるものでもありません。

むしろ、制度を使う前に、誰に任せるのか。何のために使うのか。どこまで任せるのか。
他の家族にどう共有するのか。記録をどう残すのか。

こうしたことを、本人が元気なうちに話し合っておくことが何より大切です。
お金は、ただ残せばよいものではありません。
必要なときに、本人のためにきちんと使えること。そして、亡くなった後に家族の間に不信感を残さないこと。
その両方を考えておくことが、本当の意味での生前対策なのだと思います。





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この記事を書いた人

堀 亜砂子

堀 亜砂子

税理士・相続対策コンサルタント
~想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人

税理士歴26年、法人・個人含め13,000件以上の相談対応。
個人事務所、ビッグ4税理士法人、外資系事業会社、国税不服審判所、
資産税系税理士法人を経て2023年独立。

将来を約束した恋人が30代で急死、
その後も尊敬する上司の急逝、実母の他界など、
大切な人が突然この世からいなくなる経験を重ねたことから
生前に想いをしっかり伝え合い
その日のためにできる限りの備えをしておくことの
大切さを多くの人に伝えるべく活動しています。