令和9年度税制改正、議論はどこまで進んだ?~相続・贈与・事業承継で注目したいポイント

堀亜砂子
堀亜砂子

想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人
相続対策コンサルタント
堀亜砂子です!

9月15日、政府は「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」を閣議決定しました。


現在8%の軽減税率が適用されている飲食料品について、2027年4月1日から2年間、消費税率を1%に引き下げることなどが盛り込まれています。


一方、相続・贈与・事業承継に関係する税制についても、見直しに向けた議論が進んでいます。
8月末までに、各省庁から令和9年度(2027年度)税制改正要望が提出され、財務省のウェブサイトには8月31日時点の要望がまとめて公表されています。


今回は、相続・贈与・事業承継に関係するものを中心に、今後の動きが気になる項目を見ていきたいと思います。
まず最初に確認しておきたいのは、「税制改正要望」は、まだ税制改正が決まったということではないということです。


各省庁が「来年度の税制で、このような改正をしてほしい」と求めている段階で、このあと年末に向けて検討が進み、税制改正大綱にどこまで盛り込まれるのかが注目されます。


一口に「要望」といっても、今年初めて出されたものもあれば、何年も繰り返し要望され続けているもの、
すでに別の場で具体的な見直しの検討が進んでいるものもあります。

自社株評価の仕組み、大きな見直しへ 

今回の税制改正要望の中で、すでに具体的な見直しの議論が進んでいるのが、取引相場のない株式、いわゆる非上場会社の「自社株」の評価方法の見直しです。


相続や贈与で自社株を引き継ぐ場合には、その株にいくらの価値があるのかを計算し、その金額をもとに相続税や贈与税を計算します。
現在は、会社の規模や財産、利益などに応じていくつかの方法を使い分けて株価を計算しています。


この評価方法について、2024年11月に会計検査院から、会社の規模によって評価水準に差が生じていることなどを踏まえ、より適切なものとなるよう検討する必要があるとの指摘がありました。


これを受けて、今年4月から国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」で具体的な検討が進められています。第5回会議は8月20日に開催されました。




そこでは、これまでのように会社の規模によって評価方法を分けるのではなく、より広い範囲の会社に共通する評価方法を導入する方向が示されています。
さらに、会社が持っている財産だけではなく、その会社がどれくらい利益を生み出す力を持っているかを、より重視して株価を評価する考え方も具体的に検討されています。




さらに9月16日に開催された第6回会議では、新しい評価方法の具体的な計算方法や、評価額への影響についても検討資料が示されました。


国税庁の試算では、現在の評価方法と比べて、大会社では株価が上昇する傾向が見られる一方、小会社では評価額が下がるケースも多いという結果になっています。
ただし、これは一定の条件を仮定した試算であり、実際の評価額がどの程度変わるかは、今後の制度設計や個々の会社の状況によって異なります。


まだ最終的な計算方法が決まったわけではありません。
ただ、現在の評価方法を少し修正するというよりも、自社株の価値をどう考えるかという評価体系そのものが大きく変わる可能性があるところまで議論は進んでいます。
国税庁は、事業承継への配慮は株式評価そのものではなく、事業承継税制などの政策税制で対応すべきとの考え方も示しています。


そのため経済産業省・中小企業庁も今回の税制改正要望で、見直しによって多くの企業に影響が及ぶ可能性があるとして、
企業の成長や事業承継を妨げないよう慎重な検討を求めています。


自社株の評価額が変われば、生前贈与や事業承継の計画にも当然影響します。
今後どのような形で制度化されていくのかによって、これからの生前贈与や事業承継の進め方にも影響が出て来そうです。

事業承継税制は「延長」ではなく「抜本見直し」

そして、非上場株式の評価とあわせて見ておきたいのが事業承継税制です。
2018年に設けられた法人版事業承継税制の特例措置は、2027年末までの10年間の時限措置です。


今回の経済産業省・中小企業庁の要望は、単純に現在の制度を延長するというものではありません。
項目名そのものが、事業承継税制の抜本見直しとなっています。


要望では、現在の特例措置が期限を迎えることに伴い、事業承継をきっかけとして「稼ぐ力」の強化に取り組む中小企業などを後押しする制度へ、抜本的に見直し・強化するとしています。


新たな措置の適用期間など、具体的な制度設計については現時点ではまだ「検討中」です。
これまでの「後継者へ株式を引き継ぐときの税負担を軽減する」という視点だけではなく、事業承継を企業の成長や経営改革につなげようという方向性が強く打ち出されている点も特徴です。
また別途、経済産業省からは、早期事業再生法の施行に伴う事業承継税制の拡充も要望されています。




非上場株式を「いくらと評価するのか」。
そして、その株式を「次の世代へどう引き継ぐのか」。
この二つの見直しは、これから事業承継を考える企業やご家族には大きく関係してきます。

贈与の特例では「廃止」と「存続に向けた検討」が

贈与税関係では、方向性の異なる動きが見られます。


「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」については、2027年3月31日の適用期限をもって廃止することが要望されています。


現在は、祖父母や両親から18歳以上50歳未満の子や孫などへ結婚・子育て資金を一括して贈与した場合、一定の要件のもとで1,000万円まで、うち結婚資金については300万円までが非課税となります。
ところが利用件数は、2023年217件、2024年253件、2025年219件と低迷。
制度の政策効果も限定的で、今後の利用増加も見込みにくいとして、金融庁とこども家庭庁が廃止を要望しています。


なお、2027年3月31日までにすでに拠出された資金については、その後も引き続き非課税措置を適用できることとされています。


昨年度の税制改正では、同じ一括贈与の特例である教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置も、2026年3月31日をもって終了しています。
一時期拡充されてきた「特定の目的のための一括贈与」の特例は、少しずつ整理される方向にあるようです。


一方、住宅取得等資金の贈与税の非課税措置については、少し事情が違います。
現在は、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合、一定の要件のもとで一般住宅は500万円、一定の省エネ・耐震・バリアフリー性能を備えた「質の高い住宅」は1,000万円まで非課税となります。


この制度について国土交通省は、住宅価格や金利の上昇で住宅取得環境が厳しくなっていることなどを理由として、
「必要な検討を行い、所要の措置を講じる」ことを要望しています。
現時点では「何年間延長する」「非課税枠をいくらにする」といった具体的な内容までは示されていません。


結婚・子育て資金については明確に「廃止」が要望される一方、住宅取得資金については制度を今後どうするのか引き続き検討する。同じ贈与税の特例でも、今後の方向性は分かれています。

死亡保険金の非課税枠引上げは、実は長年の要望

相続税では、金融庁から「死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ」が要望されています。




現在の非課税限度額は、500万円 × 法定相続人の数です。
今回の要望は、これにさらに、500万円 × 配偶者及び未成年の被扶養法定相続人の数を加算するというものです。
つまり、配偶者や扶養されている未成年の子がいる家庭については、その人数に応じて現在の非課税枠をさらに上乗せしようという考えです。


配偶者と未成年の子を遺して世帯主が亡くなった場合などに、相続税を支払った後も遺族の生活資金をより確保できるようにすることが目的とされています。
ただし、これは今年初めて出てきた話ではありません。


現在の「法定相続人1人につき500万円」という金額になったのは1988年(昭和63年)。
そして今回の引上げについては、平成3年度(1991年度)税制改正から継続して要望されていることが、金融庁の資料に明記されています。
30年以上にわたって要望されても、まだ実現していないことからも、「要望が出た=近いうちに改正される」とは限らないことがわかります。

上場株式の相続税評価も引き続き見直し要望

同じ金融庁から、「上場株式等の相続税に係る見直し」も要望されています。
上場株式は、相続後、相続税の納付期限までの間にも大きく価格が変動する可能性があります。


一方で、不動産などと異なり、基本的には市場価格をもとに評価されることから、金融庁は資産間の相続税負担の違いを理由として、上場株式等の評価方法を見直すよう求めています。
ただし、こちらも新しい要望ではありません。資料には、平成28年度(2016年度)からの継続要望と明記されています。


一方で今年は、相続した株式などを一定期間内に譲渡した場合に使える「相続税の取得費加算の特例」についても新しい要望が出ています。
一定の取引が税法上「譲渡したものとみなされる」場合にも、通常の譲渡と同じように取得費加算を使えることを法令上明確にしようというものです。こちらは今年度が初めての要望とされています。


少し専門的な論点ではありますが、同じ上場株式関係でも、長年続く要望と新しい要望が混在しています。

遺言制度の改正に伴う税制の整備も

相続対策との関係では、「民法の改正(遺言制度の見直し)に伴う所要の措置」も要望されています。
2026年に成立した民法改正では、船舶遭難者などの特殊な場面で認められる遺言について、録音・録画による方法が新たに加えられました。


これによって、これまで税法で使われてきた「遺言書」という言葉ではカバーできない遺言が生じるため、相続税法や所得税法などの規定も整える必要があるというものです。


ここは誤解しやすいところですが、「普通の遺言が、例えばスマートフォンで動画を撮るだけでできるようになる」という話ではありません。
今回の税制改正要望そのものは、民法改正に合わせて税法上の文言などを整えるためのもの、と考えたほうがよいでしょう。

昨年注目した暗号資産課税は、この1年で大きく前進

昨年8月25日、このブログで「税制改正要望が出そろう季節─相続・贈与、そして暗号資産課税の行方は?」という記事を書きました。 

当時、特に取り上げたのが暗号資産課税です。
1年前はまだ、「暗号資産の利益に分離課税が導入されるのか」という要望段階の話でした。




その後、令和8年度税制改正では、一定の「特定暗号資産」について、その譲渡による所得を他の所得と分けて、
所得税15%+住民税5%=20%で課税する仕組みが盛り込まれました。


あわせて、一定の損失について3年間の繰越控除を認める仕組みも設けられています。
さらに、その前提となる金融商品取引法等の改正法も、2026年7月15日に成立しました。


ただし、現在すでに暗号資産の売却益が20%の分離課税になっているわけではありません。
改正金融商品取引法にはすでに施行された部分もありますが、暗号資産を金融商品として位置づける主要な部分については、公布の日から1年以内の政令で定める日から施行されることとされています。


そして、暗号資産の20%分離課税は、その改正金融商品取引法の施行日の属する年の翌年1月1日以後の取引から適用される仕組みです。
税制改正の内容自体はかなり具体化しましたが、適用開始日はまだ確定していません。




暗号資産税制の改正についてはこちら👇を読んでみてください。


昨年「これからどうなるのか」と書いていたテーマが、1年で要望段階から法律の施行を待つ段階まで進んだことになります。税制改正を要望の段階から追ってみると、こうした変化もよく見えてきます。

同じ「要望」でも、その現在地はそれぞれ

令和9年度税制改正要望を見てみると、同じ「要望」という言葉の中にも、かなり性格の違うものが含まれていることがわかります。


死亡保険金の非課税限度額や上場株式の相続税評価のように、長年にわたり繰り返し要望されているもの。
結婚・子育て資金の一括贈与のように、これまで続いてきた制度を廃止しようとしているもの。
事業承継税制のように、期限を迎えるのを機に制度そのものを抜本的に組み替えようとしているもの。




そして非上場株式の評価のように、税制改正要望とは別の場でもすでに具体的な見直しの議論が進み、大きな方向性が見え始めているものもあります。
昨年取り上げた暗号資産課税のように、要望から大綱、法律へと実際に進んでいくケースもあります。


税制改正要望は、あくまでも税制改正の「入口」です。
そのため、項目だけで今後の改正を判断するのではなく、

その要望がどこから出てきたのか。
どこまで具体的な議論が進んでいるのか。
そして年末の税制改正大綱に、どのような形で盛り込まれるのか。


そこまで見ていくと、それぞれの制度が今どの段階にあるのかが、よりわかりやすくなります。




これから年末に向けて、令和9年度税制改正の議論はさらに進んでいきます。
相続や贈与、事業承継にどのような影響があるのか、今年も引き続き動きを追っていきたいと思います。






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この記事を書いた人

堀 亜砂子

堀 亜砂子

税理士・相続対策コンサルタント
~想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人

税理士歴26年、法人・個人含め13,000件以上の相談対応。
個人事務所、ビッグ4税理士法人、外資系事業会社、国税不服審判所、
資産税系税理士法人を経て2023年独立。

将来を約束した恋人が30代で急死、
その後も尊敬する上司の急逝、実母の他界など、
大切な人が突然この世からいなくなる経験を重ねたことから
生前に想いをしっかり伝え合い
その日のためにできる限りの備えをしておくことの
大切さを多くの人に伝えるべく活動しています。