想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人
相続対策コンサルタント
堀亜砂子です!
2026年4月1日、新しい公益信託制度がスタートしました。
以前のブログでは、100年以上続いてきた公益信託制度が大きく見直され、受託者の範囲や信託財産、公益活動の幅が広がったこと、そして課税上の取扱いについてご紹介しました。
それから約半年。
制度の改正を受けて、実際にどのような公益信託が誕生しているのでしょうか。
先日、公益信託をテーマとするオンラインセミナーに参加する機会がありました。
その中で、新制度による認可第1号の受託者となった認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえの理事長と、株式会社こころのカンパニー社長室室長で司法書士の浅沼礼奈さんによるディスカッションを拝聴し、あらためて認可事例や内閣府の公表資料を調べてみました。
今回は、制度が実際にどのように活用され始めているのか、そして私たちが財産を社会に託す選択肢として、どのような可能性があるのかを考えてみたいと思います。
新制度による認可第1号は2件
内閣府は2026年6月9日、新制度に基づく公益信託として初めて2件を認可しました。
そのうち1件は新たに設定された公益信託、もう1件は旧制度から新制度への移行です。
新規認可第1号となったのが、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえを受託者とする「地域まるごと『こども応援』公益信託」です。
公益事務の内容は、こども食堂を支援する団体等への助成。
当初の信託財産は500万円で、今後、追加の寄附も受け入れる予定とされています。
注目したいのは、信託銀行ではなく、認定NPO法人が受託者になったことです。
従来の公益信託は、信託銀行が受託者となるものが中心でした。新制度では、公益法人やNPO法人などにも受託者となる道が開かれました。
そして、今回の事例は当初信託財産が500万円という比較的小規模なものです。
もちろん、500万円あれば誰でも公益信託を設定できるという意味ではありません。
受託者の能力や公益事務の実施体制など、認可基準を満たす必要があります。
それでも、これまでとは違う公益信託の姿が、具体的な事例として現れたことには大きな意味があると思います。
一方、同日に移行認可を受けた「公益信託アジア コミュニティ トラスト」は、1979年に設立された歴史ある公益信託です。三井住友信託銀行を代表受託者として、三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、りそな銀行の4行が共同で受託しています。
アジア諸国における社会開発、教育、文化、学術研究などを支援するもので、信託財産は約2億8,000万円。
長年にわたり、多くの助成実績を積み重ねてきました。
歴史ある公益信託の新制度への移行と、NPO法人による新たな公益信託の誕生。
同じ日に認可されたこの2件は、公益信託制度の継続性と新しい可能性を、それぞれ象徴しているように感じます。
さらに2件の公益信託が認可
その後、6月29日には新たに2件が認可され、2026年8月時点で新制度による認可案件は計4件となりました。
3件目は「地域共創『子供の未来・教育応援』公益信託」です。
受託者は、ほがらか信託株式会社とコモンズジャパン株式会社。
信託財産は500万円で、教育分野の教育・研究活動等への助成を目的としています。
この公益信託の特徴は、委託者や寄附者の意向を、公益事務の具体的な内容に反映できる仕組みです。
信託契約では公益事務を幅広く定め、具体的な助成対象や地域などについては、委託者・寄附者の意向や運営委員会の意見を踏まえ、信託管理人の同意を受けた事業計画等によって決めることが予定されています。
寄附する側の想いを、公益活動の具体的な内容につなげようとする仕組みとして興味深いものがあります。
4件目は「公益信託 共創体験移動支援基金」です。
受託者は一般社団法人二地域居住共創協会。
学生が地域共創体験に参加するための移動費を支援する公益信託で、信託財産は100万円です。
単に教育費を助成するのではなく、地域との関わりを生み出すための移動費に着目しているところが特徴的です。
こうして並べてみると、公益信託の活用目的も、受託者の顔ぶれも、決して一様ではありません。
なぜ、むすびえは公益信託を作ったのか
先日のセミナーで特に印象に残ったのは、公益信託という仕組みを通じて、非営利部門にお金を循環させていくという考え方でした。
非営利活動には、その活動によって恩恵を受ける人から十分な対価を得ることが難しいものが少なくありません。
例えば、こども食堂。
食事や居場所を必要としている子どもたちや親から、その活動を維持するための費用をすべて徴収するわけにはいきません。だからこそ、活動を支える人たちから資金を集め、それを必要なところへ届ける仕組みが重要になります。
さらに、地域には個々の活動団体を支える「中間支援団体」が存在します。
中間支援団体とは、現場で活動する団体同士をつないだり、情報や資金、運営面での支援を行ったりする組織のことです。
しかし、こうした団体の役割は一般の人には見えにくく、活動の意義が十分に伝わらないために、寄附などの資金が集まりにくい面もあります。
むすびえ自身も、全国のこども食堂を支える中間支援団体です。
ディスカッションでは、むすびえが自ら先陣を切って公益信託を組成し、ほかの団体にも参考となるモデルを示そうとしたことが語られていました。
単に新しい制度を利用してみたということではなく、公益信託を通じて非営利活動を支える資金の流れを作ろうとする試みと受け止めました。
人口減少が進む日本では、将来的に税収の確保も大きな課題となります。
社会のさまざまな課題を、行政だけ、あるいは営利企業だけで解決していくことには限界があります。
非営利部門が自発的な意思決定や柔軟な対応力を生かしながら活動し、それを民間の資金が支える。
公益信託は、そうした資金循環を支える仕組みの一つになり得るのだとあらためて学びました。
公益信託は、さまざまな人の財産を集める「器」にもなる
ここで、相続や生前対策の視点からも考えてみたいと思います。
財産を社会のために役立てたいと思ったとき、すでに活動している公益法人やNPO法人などに直接寄附する方法があります。
亡くなった後に財産を託したいのであれば、遺言による寄附、いわゆる遺贈寄附も選択肢となります。
一方、公益信託は、一定の公益目的のために財産を信託し、受託者がその財産を管理・活用しながら公益事務を行う仕組みです。
そして、信託契約の内容などによっては、設定後に追加の寄附を受け入れることもできます。
むすびえの公益信託も、当初の500万円に加えて、今後寄附を受け入れる予定とされています。
つまり、最初に公益信託を設定した人の財産だけで完結するとは限らないのです。
ある公益目的に賛同する人たちが、それぞれの財産を託し、継続的に活動を支えていく。
そんな「器」としての可能性もあるわけです。
今回の制度改正を調べる中で、一般の人が公益信託を利用しようと思ったら、具体的にはどうすればよいのだろう、と考えるようになりました。
自ら公益信託を設定するとなれば、受託者や信託管理人を選び、信託契約を整え、行政庁の認可を受ける必要があります。
セミナーでは、むすびえの公益信託の信託管理人についても、関係者のネットワークの中から弁護士に引き受けてもらったというお話がありました。
こうした体制を整えることも、公益信託を実際に動かしていくためには欠かせません。
制度上の選択肢が広がったからといって、誰もが簡単に公益信託を設定できるわけではないのです。
でも、すでに誰かが作った公益信託の中に、自分の想いに合ったものがあったとしたら。
そこに財産を託すという方法も考えられます。
ただし、公益信託によって寄附の受入条件は異なります。
また、寄附する財産の種類によっては、税務上の取扱いにも注意が必要です。
それでも、これから多様な公益信託が生まれてくれば、財産を社会に託したい人にとっての選択肢も広がっていくのではないでしょうか。
認可された公益信託の情報は公開されている
もう一つ興味深かったのは、認可された公益信託について、内閣府の「公益法人Information」で提出書類などの情報を閲覧できることです。
信託の目的や受託者、事業内容などを、実際の公表資料に基づいて確認できます。
内閣府では、検索から資料の閲覧までの手順を説明したマニュアルも公開しています。
▼ 「公益信託の公表情報の閲覧方法について」(PDF)
公益信託というと、一般の人にはなかなか実態が見えにくい制度かもしれません。
けれども、どのような公益信託が存在し、何を目的に活動しているのかを調べることができれば、寄附先や財産の託し先を考える際の手掛かりになります。
また、内閣府では公益信託のモデル契約や認可申請の手引きなども順次公表しています。
さらに、10月16日には、公益信託の設定を目的とする遺言書の記載事項について、意見照会が開始されました。
遺言による公益信託の設定についても、実務上の整理が進められていることがうかがえます。
今後も注目していきたい動きです。
財産だけでなく、想いを社会へ託すために
公益信託の制度が変わったと聞いても、それだけではなかなか身近に感じられないかもしれません。
でも、実際に認可された事例を見ていくと、こども食堂を支える活動、教育への助成、学生と地域をつなぐ支援など、それぞれの公益目的が具体的に見えてきます。
そして、その背景には、社会の課題を解決したいという想いと、それを支える財産の存在があります。
相続というと、どうしても家族に財産をどう遺すか、税金をどうするかという話になりがちです。
家族の生活を守り、将来に備えることは大切です。
その一方で、自分が築いてきた財産の一部を、社会のために役立てたいと考える人もいるでしょう。
そうした想いを実現する方法として、遺贈寄附に加えて、公益信託という選択肢も少しずつ身近になっていくのかもしれません。
新制度が始まって、まだ半年余り。
認可された公益信託が今後どのような活動を展開し、どのように寄附者や支援者を広げていくのかは、これから見えてくるところです。
誰かが自分の想いに合った「器」を作ってくれていたら、そこに財産を託すことができる。
そんな選択肢が、これから少しずつ増えていくことを期待しています。
財産を未来へつなぐ方法は、家族への相続だけではありません。
大切なのは、何を遺すかだけでなく、そこにどんな想いを込めるか。
新しい公益信託制度の動きを、これからも見守っていきたいと思います。
【参考資料】
- 内閣府「公益法人Information」公益信託制度改革特集ページ
- 内閣府「新しい『公益信託制度』の第1号案件について」
- 内閣府「こうえきしんたくん通信」第2号
- 内閣府「公益信託の公表情報の閲覧方法について」
- 公益財団法人公益法人協会コラム「新しい公益信託制度下で初の認可」
【お知らせ】
このたび、書籍『“なんとなく気になる”が、最初の一歩~大切なのは心をつなぐ相続~』を出版しました。
相続を、財産や手続きだけでなく、想いや愛情を未来へつなぎ、今を大切に生きるための機会と捉えた一冊です。
相続について「なんとなく気になる」と感じたときに、ぜひ手に取っていただけたら嬉しいです。
“なんとなく気になる”が、最初の一歩 ~大切なのは心をつなぐ相続~

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