「デジタル終活」の現在地 ~何を残し、何を伝え、何を消すのか~

堀亜砂子
堀亜砂子

想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人
相続対策コンサルタント
堀亜砂子です!

先日、有明GYM-EXで開催された「エンディング産業展2026」へ行ってきました。 

葬儀や供養、終活などに関するさまざまな企業やサービスが集まる展示会ですが、今回の私のいちばんの目的は、
「エンディングノートだけでは足りない? 故人の尊厳を守る『デジタル終活』の進め方」
と題するセミナーに参加することでした。

最近このブログでも、デジタル遺品や、自分が亡くなった後のウェブサイト、ChatGPTなど、デジタル時代ならではの「もしもの後」について何度か取り上げてきました。

また先日は、三菱UFJフィナンシャル・グループが発表した新しいデジタル相続プラットフォーム「エムットそうぞく」についてもご紹介したばかりです。

そんなこともあって、あらためて「デジタル終活」について整理してみたいと思い、このセミナーに参加しました。

スマホの中には、その人の人生が詰まっている

いまやスマートフォンは、単なる電話ではありません。

家族や友人との連絡、写真や動画、銀行や証券会社との取引、クレジットカード、各種契約、サブスクリプション、SNS、仕事に関する情報など、日々の暮らしのかなりの部分がスマートフォンの中に集約されています。
そして最近では、そこにChatGPTなどの生成AIとの会話まで加わりました。



セミナーでは、スマートフォンがいまや「生活インフラ」になっているという話もありました。
実はその数日後、私自身のiPhoneにトラブルが起こり、最終的には初期化して復旧するという事態に見舞われました。

連絡先や写真だけでなく、さまざまなアプリや認証、日常的に使っているサービスなど、普段いかに多くのものをスマートフォンに頼っているのかを身をもって実感することになりました。

セミナーで聞いたばかりの「スマホは生活インフラ」という言葉を、まさか数日後に自分自身がこれほど実感することになるとは思いませんでした。
今回は自分で復旧することができましたが、もし自分で対応できない状態になったら――。

そう考えると、本人にもしものことがあったとき、残された家族が直面する問題も、決して大げさな話ではないと感じます。



「スマホが開けない」

「どこの銀行や証券会社を使っていたかわからない」

「何のサブスクを契約していたのかわからない」

家族がスマホを開くことができれば、すべて解決するわけでもありません。
むしろ、そこにはまた別の問題があります。

「見つけてもらいたいもの」と「見られたくないもの」

ネット銀行や証券口座、暗号資産などは、家族にその存在を見つけてもらわなければ困ります。
財産そのものが見つからなければ、手続きができず、相続税の申告からも漏れてしまう可能性があります。
写真なども、家族に残しておきたいものがあるでしょう。


その一方で、SNSのメッセージ、検索履歴、写真やスクリーンショット、誰にも見せるつもりのなかった記録、そして生成AIとの濃い会話。こうしたものまで、すべて家族に見てもらいたいとは限りません。



今回セミナーを行った株式会社GOODREIでは、デジタル終活に関するさまざまな意識調査を行っています。
セミナーで紹介されたのは、世帯年収1,000万円以上、または金融資産2,000万円以上の40代・50代・60代以上の既婚男女480人を対象に、2026年7月に実施された調査です。


この調査では、ネット銀行やネット証券などのデジタル上の資産情報を家族へ確実に遺したい・引き継ぎたいと答えた人が69%そのうち54%が、死後に家族からスマートフォン内の閲覧履歴や個人的なメッセージなどを見られることに「心理的な抵抗がある」と回答しています。


「資産情報は家族に遺したい。でも、スマホの中身をすべて見られたいわけではない」


まさに、今回のセミナーのテーマでもあった、デジタル時代ならではのジレンマです。


またGOODREIがこれとは別に2026年5月に行った、40代以上の既婚男女480人を対象とするSNS・生成AIに関する調査では、生成AIを1日1時間以上利用する人の85%が、万一自分が急死した場合に「家族に見られたくない内容がある」と回答しています。
内容としては、健康や死への不安、家族や人間関係の悩み、自身の嗜好、金銭についての相談などが挙げられていました。
※出典・引用:株式会社GOODREI「デジタル終活・意識調査(2026年)」



これは、私はとてもよくわかります。
ChatGPTなどの生成AIには、誰かに見せるためではなく、自分の考えを整理するために話すことがあります。
ときには家族にも友人にも言わないことを話すこともあるでしょう。


以前ブログでも、ChatGPTとの会話は「新しいデジタル遺品」になるのではないかということを書きました。

写真や銀行口座とは違って、そこに残っているのは、ある意味ではその人の「頭の中」にかなり近いものです。

「残すもの」だけでなく、「残さないもの」を決めておく。

これからの終活には必要なのだと思います。

「残す・伝える・消す」というデジタル終活

今回のセミナーでは、デジタル情報を「残す・伝える・消す」という三つの視点から整理していました。
私自身も、この三つで考えると、デジタル終活がとてもわかりやすくなると感じました。

残すこと

家族との写真や思い出、財産に関する情報、これからも残してほしいデータなどを整理しておく。

伝えること

どこにどんな財産や契約があるのか、スマートフォンや各種アカウントに必要な情報はどこに保管しているのか、誰に何を引き継いでもらいたいのかを伝えられるようにしておく。

消すこと

SNSの履歴や不要なアカウント、サブスクリプション、見られたくない写真やデータなどについて、自分がどうしてほしいのかを決めておく。



以前、ドラマ『dele(ディーリー)』をきっかけに、亡くなった人のスマートフォンやパソコンに残るデータについて書きました。

ドラマでは、依頼人が亡くなった後、指定されたデジタルデータを秘密裏に削除する仕事が描かれていました。
当時はドラマの世界として見ていた「死後にデータを消してもらう」という発想が、いまや実際の終活サービスとして登場していることにも、時代の変化を感じます。



これまで「デジタル遺品対策」というと、パスワードを家族にわかるようにしておくとか、ネット銀行などの財産を一覧にしておく、といった話が中心だったように思います。もちろん、それは今でもとても大切です。



ただ、デジタルに残るものがここまで増えた今は、それだけでは足りなくなってきているのでしょう。

「書いておく」だけでなく、実行してもらう

今回セミナーを行ったGOODREIは、デジタル遺品の生前整理サービス「デジ・タクセル」を提供しています。
このサービスの特徴は、本人が元気なうちに、家族へ残す情報消してほしい情報を整理し、万一の場合には事前に決めた内容に沿って専門家が実行するところにあります。


たとえば、ネット銀行、証券口座、暗号資産などの情報は指定した人へ通知する一方で、指定したアプリやSNSの履歴、検索・閲覧履歴などについては、事前に登録した方針に沿って整理・削除する、といったことが可能とされています。


標準プランでは、デバイス1台のパスワード保管・引き継ぎ、金融機関情報最大5件、継承者へのメッセージ最大3名、
SNSやアプリ、サブスクリプション等の整理などが含まれ、料金は33万円(税込)の一括払いとなっています。
月額費用や更新料はないとのことです。


また、毎月生存確認を行い、本人と連絡が取れなくなった場合に指定された家族へ確認する仕組みもあります。
死亡時だけでなく、認知症と診断された場合などについても、一定の条件のもとで対応する仕組みが設けられています。


エンディングノートに「こうしてほしい」と書き残すことには、とても大きな意味があります。
ただし、自分が亡くなったあと、本当にそのとおりに実行されたかを自分で確認することはできません。


「意思を残す」だけでなく、その意思を誰が実行するのかまで決めておく
これは、デジタル終活に限らず、これからの生前対策を考える上で興味深い視点だと思いました。


ちなみにセミナー会場では、GOODREIの公式サイトでも出版実績として紹介されている

『日本一わかりやすい「デジタル終活・遺品の探し方」実践ガイド』
『60歳からのスマホのパスワード あんしん整理ノート』

という2冊の本もいただき、早速拝読しました。


あんしん整理ノートのほうはその名のとおり、実際に記入してそのまま整理に活用できるようになっています。
かなり字も大きくて、説明もかみくだいてわかりやすくなっているため、とっかかりとしてはよいと思います。

月額550円で情報を引き継ぐ「スマホのあんしんまもり箱」

会場を回っていて、もう一つ興味をひかれたサービスがありました。
TOIVENOI株式会社が提供する「スマホのあんしんまもり箱」です。


こちらは今回のセミナーを行ったGOODREIとは別の会社のサービスです。
アカウント情報、サブスクリプション、銀行口座、金融機関のログイン情報、クレジットカード、不動産情報などを登録し、一か所で管理することができます。

登録した情報について、

「今すぐ共有する」

「もしもの時に共有する」

を選ぶことができ、共有する相手は最大4名まで設定できます。


「もしもの時に共有」とした情報については、あらかじめ家族や専門家を継承者として指定し、死亡時には継承者が死亡の事実を示す公的書類を提出。事務局が確認した上で情報を開示する仕組みです。

月額料金は550円(税込)。

公式サイトによれば、情報は暗号化され、運営会社でも内容を見ることができない「ゼロ知識設計」、二段階認証、国内サーバーでの管理などのセキュリティ対策も採られています。


「デジ・タクセル」と料金も仕組みもかなり異なりますが、どちらがよいという話ではありません。
公開されている内容を見る限り、「スマホのあんしんまもり箱」は必要な情報を安全に保管し、しかるべき人へ渡すことが中心。


一方、「デジ・タクセル」は、情報の継承に加えて、本人の希望に沿ったデータの削除などを専門家が実行することまで含めたサービスです。
同じ「デジタル終活」でも、さまざまな形のサービスが登場していることがわかります。

金融機関も「デジタル相続」へ

上記のとおり、三菱UFJフィナンシャル・グループは先ごろ、2026年度下期に提供開始予定のデジタル相続プラットフォーム「エムットそうぞく」というサービスを発表しました。


その中の「家族共有ノート」では、家族に伝えておきたい情報や想いを整理し、家族と相談したいテーマを選んだり、話し合った内容を記録したりすることが予定されています。




デジタル終活というと、データやパスワードをどう管理するかという「技術」の話になりがちです。
でも、「誰に何を伝えたいのか」「家族で何を話しておきたいのか」というところまで、金融機関のサービスとして扱われるようになってきました。

ウェブサイトもChatGPTも「その後」を考える時代

私自身も少し前に、自分が亡くなったあと、このウェブサイトはどうなるのだろうと考えてブログを書きました。

ウェブサイトも、本人が亡くなったからといって自動的に消えるわけではありません。


サーバーやドメインの契約、WordPressの管理などが続いていれば、本人がいなくなったあともインターネット上に残り続けます。


残してほしいのか。ある時期が来たら閉じてほしいのか。誰かに管理を引き継いでもらいたいのか。
これも本人にしか決められません。




ChatGPTも同じです。
現在、ChatGPTのチャットは、基本的に本人が削除するまでアカウントに保存されます。
チャットやアカウントを削除した場合には、原則として30日以内にOpenAIのシステムから削除される仕組みになっています。


ただ、本人の死後に家族がどう扱うかという「デジタル遺品専用の仕組み」が用意されているわけではありません。




だとすれば、生きているうちに、
「残して構わないもの」「誰かに伝えてほしいもの」「自分と一緒に消してほしいもの」について考えておく必要があります。

デジタル終活は「パスワード整理」だけではない

私自身、これまで生前対策についてお伝えするときには、

財産を整理すること、

家族にわかるようにしておくこと、

そして自分の想いを伝えておくこと

この三つを大切にしてきました。


拙著「”なんとなく気になる”が最初の一歩~大切なのは心をつなぐ相続~」でも、SNSやデジタル遺産の整理を相続対策の一つとして取り上げています。


暗号資産やマイル、ポイントなどを含め、自分がどんなデジタル資産を持っているのかを把握しておくこと。
その一方で、パスワードや秘密鍵そのものをむやみに一覧表に書くのではなく、安全な形で信頼できる人へつなぐことも重要です。


けれど今回のセミナーを聞いて、それだけではないのだと改めて感じました。
デジタルの世界には、財産だけではなく、その人の思い出も、人間関係も、悩みも、本音も、
ときには誰にも知られたくない「その人だけの領域」も残されています。


だからデジタル終活とは、データを家族が見つけられるようにすることだけではありません。

何を残すのか。何を伝えるのか。そして、何を消すのか。

その一つひとつについて、本人が自分の意思を持って決めておく。

それは残される家族を困らせないための準備であると同時に、自分自身の尊厳を守るための準備でもあるのではないでしょうか。


デジタル上にも私たちの人生が積み重なっていく時代。

「自分がいなくなった後、デジタル上の自分をどうしたいのか」。

これからはそんなことも、生前に考えておく時代になっているのです。





【お知らせ】
このたび、書籍『“なんとなく気になる”が、最初の一歩~大切なのは心をつなぐ相続~』を出版しました。
相続を、財産や手続きだけでなく、想いや愛情を未来へつなぎ、今を大切に生きるための機会と捉えた一冊です。
相続について「なんとなく気になる」と感じたときに、ぜひ手に取っていただけたら嬉しいです。

“なんとなく気になる”が、最初の一歩 ~大切なのは心をつなぐ相続~


「突然の別れ」は、誰にとっても他人事ではありません。
だからこそ、“その時”が来る前に、できる準備を。
あなたやご家族の大切な想いを、

静かに、でも確かに未来へつなげるために─


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この記事を書いた人

堀 亜砂子

堀 亜砂子

税理士・相続対策コンサルタント
~想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人

税理士歴26年、法人・個人含め13,000件以上の相談対応。
個人事務所、ビッグ4税理士法人、外資系事業会社、国税不服審判所、
資産税系税理士法人を経て2023年独立。

将来を約束した恋人が30代で急死、
その後も尊敬する上司の急逝、実母の他界など、
大切な人が突然この世からいなくなる経験を重ねたことから
生前に想いをしっかり伝え合い
その日のためにできる限りの備えをしておくことの
大切さを多くの人に伝えるべく活動しています。