想いと豊かさを未来へ繋ぐ案内人
相続対策コンサルタント
堀亜砂子です!
相続や生前対策というと、まず思い浮かぶのは、家族へ財産をどう残すかということでしょう。
一方で最近は、家族だけでなく、社会や地域、未来の誰かのために財産を役立てたいという考え方にも関心が集まっています。
少し前に、このブログでも「遺産寄付」について取り上げました。
少子高齢化やおひとりさま世帯の増加などを背景に、財産を社会へ託すという選択肢も広がっています。
「公益信託」もその選択肢のひとつです。
公益信託とは
信託とは、自分の財産を信頼できる人や団体に託し、一定の目的に沿って管理・運用してもらう仕組みです。
その中でも公益信託は、奨学金、学術研究、福祉、文化、環境保護など、不特定多数の人の利益につながる公益活動のために財産を託す制度です。
令和6年5月22日に公布された「公益信託に関する法律」は、令和8年4月1日から施行されています。
同法では、公益信託を「受益者の定めのない信託であって、公益事務を行うことのみを目的とするもの」と定義しています。
少し硬い表現ですが、特定の個人や団体が利益を受けるための信託ではなく、公益活動そのものを目的とする信託と考えるとイメージしやすいでしょう。
内閣府は公益信託について、「契約・遺言により委託者から受託者に託された財産を用いて、受託者が委託者の想いに沿った公益活動を継続的に行う仕組み」と説明しています。(「新公益信託制度が令和8年4月から始まります」内閣府New Wave)
つまり公益信託とは、
・これからの世代の学びを支援したい
・地域の文化活動に役立ててほしい
・医療や福祉に貢献したい
・環境保全に役立ててほしい
…などなど、想いを形にするための制度と言えます。
改正の背景

公益信託という制度そのものは以前からあり、大正11年(1922年)制定の「公益信託ニ関スル法律」に基づいて運用されててきました。100年以上続いた制度ですが、これまでは広く利用されてきたとはいえませんでした。
その理由のひとつには、制度のわかりにくさがありました。
従来の公益信託は、主務官庁ごとに許可や監督の基準が異なり、公益法人に比べて制度が複雑でした。
また、税制優遇を受けるための要件や運営上の制約も多く、活用のハードルが高かったといえます。
その結果、受託者は信託銀行などが中心となり、信託財産も金銭が主流でした。
活動内容についても、奨学金や研究助成などの助成型事業に活用されるケースが多く、制度の利用は限定的なものにとどまっていました。
一方で近年は、遺贈寄付への関心の高まりにも見られるように、「自分の財産を社会のために役立てたい」というニーズが広がっています。
少子高齢化やおひとりさま世帯の増加などを背景に、財産を家族だけでなく社会へ託すという考え方が、少しずつ身近なものになってきました。
こうした社会の変化を受けて、公益信託をより利用しやすく、時代のニーズに合った制度へ見直すため、大幅な制度改正が行われ、令和8年(2026年)4月1日からスタートしています。
改正の3つのポイント
今回の改正のポイントは大きく3つあります。
ポイント① 受託者の範囲が広がる
これまで中心だった信託銀行等だけでなく、一定の要件を満たした公益法人やNPO法人なども、公益信託の受託者となることが可能になりました。
ポイント② 信託財産や公益活動の幅が広がる
従来は金銭による助成型事業が中心でしたが、新制度では、株式や不動産なども信託財産として活用しやすくなります。
また、奨学金や研究助成に限らず、美術館の運営や環境保全活動など、より幅広い公益活動への活用も想定されています。
ポイント③ 認可・監督の仕組みが整理される
従来は主務官庁ごとに許可・監督されていましたが、新制度では、公益法人と同様に、内閣府または都道府県による認可・監督の仕組みに改められました。
つまり今回の制度改正は
「担い手の範囲を広げる」
「活用できる財産や公益活動の幅を広げる」
「透明性の高い認可・監督の仕組みを整理する」
という3つの柱で行われたものなのです。
税制面の整備
上記の通り、今回の改正により、受託者の範囲が広がり、信託財産として活用できる財産や公益活動の幅も広がることになりました。そうなると、問題になるのが税制面です。
たとえば、不動産や株式などの含み益のある現物資産を公益信託に拠出する場合、税務上は時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得等の課税が問題になります。
社会のために財産を役立てたいという想いがあっても、財産を拠出した時点で大きな税負担が生じるとなれば、公益信託を活用しにくくなってしまいます。
そこで、税制面についても、公益信託制度の見直しに合わせて、令和6年度・令和7年度税制改正により必要な整備が行われました。
令和8年4月1日以後、譲渡所得等の非課税特例の対象となる「公益法人等」の範囲に、公益信託の受託者が加えられています。この内容は「公益信託に財産を拠出した場合における譲渡所得等の非課税の特例のあらまし(国税庁リーフレット)」にも整理されています。
つまり、個人が公益信託の受託者に不動産や株式などの財産を拠出する場合についても、国税庁長官の承認を受ければ、譲渡所得等が非課税となる仕組みが整備されたのです。
以上は、財産を拠出する人に関する譲渡所得等の取扱いについてです。
これに対して、公益信託制度の見直しに合わせて、相続税・贈与税の取扱いについても令和6年度税制改正で見直しが行われました。
公益信託の受託者が、遺贈または贈与により信託財産として取得した財産については、相続税または贈与税の課税価格に算入しない取扱いが設けられています。
また、相続財産を公益信託の信託財産とするために支出した場合の相続税の非課税措置についても、対象となる財産が金銭に限定されないよう見直されました。
さらに、公益信託から給付を受けた財産については、贈与税の課税価格には算入しないこととされています。
一方で、公益信託からの給付については、所得税の課税対象となる場合があります。学資を目的とする給付など一定のものは非課税とされていますが、すべての給付が非課税となるわけではありません。
このような個別の税制整備に加え、今回の制度改正では、公益信託の認可と税制優遇が連動する仕組みも整えられ、公益法人と同様※の税制上の優遇措置を受けられるようになりました。
※ただし、公益信託への寄附に係る寄附金控除は、現段階では税額控除ではなく所得控除のみです。
税制面でも活用しやすい仕組みが整えられましたが、信託財産の内容や必要な手続きによって、実際の取扱いは変わります。
公益信託は、委託者の想いを社会へ託すための制度です。
改正で選択肢は広がりましたが、その想いをきちんと形にするためには、制度面と税務面の両方から確認しながら進めることが大切です。
遺贈寄付との違い
少し前にご紹介した遺贈寄付も、財産を社会へ託す方法のひとつです。
遺贈寄付は、遺言によって公益法人やNPO法人などへ財産を寄付する方法です。
寄付先を指定するだけでなく、寄付した財産の使い道を指定することもあります。
一方、公益信託は、一定の公益目的のために財産を信託し、その目的に沿って受託者が継続的に管理・運営していく仕組みです。公益信託も、契約だけでなく遺言によって設定することができます。
つまり、遺贈寄付と公益信託は、どちらか一方しか選べないという関係ではありません。
どちらも、財産を社会へ託す方法です。
また、「公益目的のために使う」という点も共通しています。遺贈寄付であっても、奨学金事業や環境保全活動、文化振興など、寄付先や使途を指定することは可能です。
両者の違いは、財産の託し方にあります。
遺贈寄付では、公益法人やNPO法人などの寄付先が財産を受け取り、その団体の事業として活用します。
これに対して公益信託では、信託目的を定め、その目的に沿って信託財産を管理・活用する仕組みを設けます。
言い換えれば、遺贈寄付が既存の公益法人やNPO法人などへ財産を託す方法であるのに対し、公益信託は特定の公益目的のために財産を継続的に活用する仕組みを設ける方法といえます。
どちらも社会へ想いをつなぐ方法ですが、遺贈寄付は特定の団体へ財産を託す方法、公益信託は信託という仕組みを利用して公益目的のために財産を継続的に管理・活用していく方法、と整理するとわかりやすいでしょう。
相続との関わり

公益信託は社会貢献の制度ですが、相続や生前対策とも深く関わります。
自分が亡くなったあと、財産の一部を社会のために役立てたい。
地域や未来の世代へ何かを残したい。
自分が大切にしてきた活動を支援したい。
そう考える方にとって、公益信託はこれからの選択肢のひとつになります。
ただし、相続の場面では家族への配慮も欠かせません。
財産の多くを公益目的に使う場合、家族がその想いを知らなければ、戸惑いや反発が生じることもあります。
相続人がいる場合には、遺留分の問題にも注意が必要です。
「社会のために役立てたい」という想いと、「家族への配慮」。
その両方を大切にしながら進めることが、想いをきちんと未来へつなぐために必要です。
さらに詳しく知りたい方へ
公益信託については、国(内閣府)と都道府県が運営する公式総合情報サイト「公益法人Information」に、公益信託の専用ページが設けられています。
このページには、新しい公益信託制度の解説資料、ガイドライン、申請の手引き、モデル契約、関係法令、制度検討の経緯などがまとめられています。
令和8年5月29日には、株式配当活用型公益信託の信託契約イメージや、個人からの現物資産拠出に関するみなし譲渡所得税非課税承認の手引きも掲載され、さらに令和8年6月2日からは「公益信託オフィスアワー(相談窓口)」が試験的に創設されました。
また、新しい公益信託制度について、内閣府による解説動画も公開されています。
制度説明会の録画のため、1時間超とやや長い動画ですが、制度改正の背景や制度の概要がわかりやすく解説されています。
「こうえきしんたくん」というかわいいイメージキャラクターも紹介されています。
Charitable Trust(チャリタブルトラスト)から「チャリに乗ったトラ」という発想だそうです(^^)
委託者の想いを載せたリュックを背負い、不特定多数の人に届けるという設定にも、公益信託の考え方が表現されています。
おわりに
相続は、単に財産を引き継ぐ手続きではありません。
家族へ想いをつなぐこともあれば、社会へ想いを託すこともあります。
少し前にご紹介した遺贈寄付もそうですし、今回の公益信託も、財産を社会へ託す選択肢のひとつです。
家族のために残すことも、地域や社会のために役立てることも、どちらが正しいというものではありません。
大切なのは、「何を遺すか」だけでなく、「どのような想いを、どのような形で未来へつないでいきたいのか」を考えておくことです。
公益信託制度の改正も、その想いを形にするための選択肢を広げるものだと感じています。
相続を考えるときには、税金や手続きだけでなく、「自分の想いをどこへ、どのように託すのか」という視点を大切にしたいですね。
「突然の別れ」は、誰にとっても他人事ではありません。
だからこそ、“その時”が来る前に、できる準備を。
あなたやご家族の大切な想いを、
静かに、でも確かに未来へつなげるために─
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